人種神話を解体する【全3巻】

著者
竹沢泰子 編者代表
シリーズ
人種神話を解体する
内容紹介
著者紹介

[シリーズ編者]
竹沢泰子 [京都大学人文科学研究所教授]
斉藤綾子 [明治学院大学文学部教授]
坂野 徹 [日本大学経済学部教授]
川島浩平 [武蔵大学人文学部教授]

 

刊行のことば(抄)

 「人種」は一般に、人類を身体的特徴によって分類する生物学的概念だと理解されているが、現代科学では人種は生物学的実体をもたないことが明らかになっている。ヒトの多様性と人種は根本的に異なるもので、ヒトの多様性が種としての人類の存続に不可欠であるのに対し、人種は、明確な境界をもち、特定の身体的特徴や能力、性格をひとまとまりとして共有しているかのごとく想定する、人間社会が創り出したものである。……目に見えようが見えまいが、差異を創り出し、境界線を引き、徴づけては可視化させる、そして「遺伝する」という語りによってその差異を自然化させ、本質化させ、固定化させていく。それこそが人種化の行為なのである。この「変えられない」ものとされる人種は、ヒエラルキーを正当化する装置としてさまざまな言説に動員され、……ジェンダーや階級と交錯すると、差異はいっそう固定化され、交錯がさらなる独自の言説を生み出す。

 

 国連の人種差別撤廃委員会の報告書では、日本の在日韓国・朝鮮人に対する差別をはじめ、アイヌ、沖縄の人びと、被差別部落出身者、外国からの移住労働者などに対する差別が、日本の人種差別問題として取り上げられている。しかしこのなかには、主流派の日本人と外見上の特徴が異なるとされる人びともいれば、身体的には同一であるにもかかわらず、「人種が違う」とする言説により想像上の差異が集団単位で創りあげられ、差別されてきた人びともいる。「人種」の中身が議論されることなく、「人種差別」という言葉のみ独り歩きすれば、差別の弊害についての認識が広まっても、差別の対象とされる人びとがあたかも生物学的に日本人と異なる存在であるかのごとき誤解を与えかねない。また「人種」という言葉を回避したところで、人種差別が解消に向かうわけでもないことはこれまでの歴史が示す通りである。「人種」を語らないことが、むしろ問題を不可視化させてきたのである。

 

 人種を問うことは、人がいかなる社会的条件の下で、人を異なる種として分類し、名指し、「差異」と「差別」を創っていくのかという根源的な問いに迫ることでもある。本シリーズが、いまも平等社会の実現を阻み続けている人種差別の解明と抑制に一歩でも近づくものとなれば本望である。

 

編者を代表して 竹沢泰子


 

シリーズの特徴

●編者らが京都大学人文科学研究所を拠点に2011年から取り組んできた国際・学際的共同研究「人種表象の日本型グローバル研究」プロジェクトの到達をしめすシリーズ。

●知的探索としてスリリングであるだけでなく、“学知の産物でもある”人種・人種主義に対して現代の学知がどのような姿勢をとるべきか/とりうるかを真摯に探究する。

●アイヌ、沖縄、在日外国人、被差別部落、「ハーフ」「ミックスレイス」など現代日本社会の諸問題と、世界の人種研究の現在をリンクさせる各巻構成。

●歴史・社会的に複雑な構成をとる人種概念に対して、歴史学、社会学、文化人類学、民俗学から、映画学、表象研究など人文知の先端、さらには科学史やゲノム研究の現場まで、国際的に活躍する一線の研究者が学際的なアプローチで執筆。

 

第1巻 可視性と不可視性のはざまで


編者
斉藤綾子・竹沢泰子 ――[編]

 本来見えるはずのない人々の差異は、歴史・社会的にどのように徴づけられてきたのか。人種主義は社会階層、ジェンダー、民族の政治(ポリティクス)とどう複合してきたか。見えない人種が創られていく現場に、近代史と現代、日本とアジア・ヨーロッパ・アメリカの事例から切り込む。

 

I 被差別集団の人種化
 1章 被差別部落の映画表象――差異と差別の可視性と不可視性 …斉藤綾子
 2章 人種の形成――韓国の白丁の事例 …金仲燮 [韓国、慶尚大学]/髙正子 [神戸大学] 訳
 3章 近代日本社会と被差別民の表象――「差異」の歴史的位相 …吉村智博 [大阪市立大学]
II 制度としての人種形成
 4章 血の掟――アメリカ合衆国の法廷における人種の見えない常識
…アリエラ・グロス [アメリカ、南カリフォルニア大学]/後藤千織 [青山学院女子短期大学] 訳
 5章 日本の天皇制と近代人種主義…タカシ・フジタニ [カナダ、トロント大学]/辛島理人 [神戸大学] 訳
III 移動のポリティクスと人種
 6章 「移動民族」としてのロマと新人種主義――ヨーロッパ域内の人の移動をめぐるポリティクス …岩谷彩子 [京都大学]
 7章 〈血〉の連続性とは何か?――現代の首都圏におけるアイヌ民族の隣接的共同性原理をめぐって …関口由彦 [成城大学]
 試論1/試論2 …竹沢泰子

第2巻 科学と社会の知


編者
坂野 徹・竹沢泰子 ――[編]

 

 人種主義は無知の所産ではなく、科学を含む知こそが人種主義を駆動してきたとはいえないか。近代知における考古学・人類学・医療の再考から、最近のゲノム研究がこんにち私たちに要求するヒトの差異の認識の現在まで、“人種という知”の歴史と現在を問う。

 序章 人種・民族・人種主義 …坂野 徹
I 自然人類学・考古学と人種研究
 1章 「縄文人」と「弥生人」――日本考古学にとって「人種」とは何か …坂野 徹
 2章 フランスにおける形質人類学の変遷史――19世紀末からの人種科学をめぐって…キャロル・レノー‐パリゴ [フランス、パリ‐ソルボンヌ大学]/小林新樹 [翻訳者]、アルノ・ナンタ [フランス国立科学研究センター] 訳
3章 人種主義と科学者の「中立性」――アンリ・ヴァロワの活動を中心に …アルノ・ナンタ
II 人種研究とコミュニティ
 4章 賀川豊彦の社会事業と科学的人種主義――近代日本における〈内なる他者〉をめぐる認識と実践 …関口 寛 [四国大学]
 5章 インドにおける血液、贈与、共同体――有徴化と匿名化のはざまで …石井美保 [京都大学]
 6章 規律と欲望のクリオン島――フィリピンにおけるアメリカの公衆衛生とハンセン病者…日下 渉 [名古屋大学]
III 「人種」とゲノム研究の現在
 7章 ゲノム情報にもとづく人類学にとっての集団 …太田博樹 [北里大学]
 8章 皮膚色と頭骸骨形態からみたヒトの多様性…瀬口典子 [九州大学]、ライアン・シュミット [アイルランド、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン]
 9章 医薬品規制の最前線における人種とその表象――日本人の「身体的差異」をめぐる国際論争から…郭文華 [台湾、国立陽明大学]/加藤茂生 [早稲田大学] 訳
 10章 日本におけるゲノム研究と集団の表象――座談会…太田博樹、加藤和人 [大阪大学]、竹沢泰子、徳永勝士 [東京大学]

 

第3巻「血」の政治学を越えて


編者
 川島浩平・竹沢泰子 ――[編]

 メディアや文化における「血」の語りの構成を明らかにしつつ、自らの生き方と葛藤によって社会的実在としての人種概念を少しずつ動かし解体してきた、“境界に立つ当事者たち”の姿を仔細に追うことで、人種という表象、人種という知の今後の姿を見る。

 

 序章 混血神話の解体と自分らしく生きる権利 …竹沢泰子
I 表象と帝国・占領・植民地主義
 1章 「ハーフ」をめぐる言説――研究者や支援者の著述を中心に …岡村兵衛
 2章 1930年代の映画が描いた「混血児」とその「母」 …高 美哿 [法政大学]
 3章 日本における「混血児」のディスクール――「戦前」と「戦後」 …成田龍一 [日本女子大学]
 4章 人種化される欲望――「沖縄」をめぐる映画的想像力の一考察…菅野優香 [同志社大学]
II 「混血」「ミックスレイス」から歴史を読み直す
 5章 植民地統治下の白人性と「混血」――英領インドの事例から …水谷 智 [同志社大学]
 6章 アメリカスポーツ発展期における混血アスリートの人種意識 …川島浩平
 7章 日系アメリカ人とミックスレイスの歴史、1868-1930年…ダンカン・ウィリアムズ [アメリカ、南カリフォルニア大学]/辛島理人 訳
III 自分らしい生き方を求めて
 8章 ミックスレイス日系人アーティストの作品と語り――人種カテゴリをめぐる解釈と表現の戦略 …竹沢泰子
 9章 在日朝鮮人=日本人間「ダブル」の民族経験――共約不可能性を見すえた共同性を目指して …李洪章 [神戸学院大学]
 10章 差異の交渉とアイデンティティの構築――日本とパキスタンの国境を越える子どもたち…工藤正子 [京都女子大学]
 11章 ミックスレイスの沖縄人とその曖昧なはざま…ミッツィ・ウエハラ・カーター [アメリカ、フロリダ国際大学]/河口和也 [広島修道大学]、川島浩平 訳
ムラトー
アイデンティティ

人種神話を解体する【全3巻】
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