知の生態学的転回【全3巻】

内容紹介
著者紹介

シリーズの特色
●「人間環境」の多様な問題を、ジェームズ・ギブソンが提唱した生態心理学の知見から 考察するシリーズ。
●「生態学的転回」とは知覚・行為・コミュニケーションなどの経験に即しながら、人間と 環境の関係を原理的・哲学的次元で再検討する試みを指す。
●ギブソンの生態学的アプローチを哲学、技術倫理、認知科学、発達心理学、建築、ユニバーサルデザイン、ロボティクス、看護とリハビリテーション、コミュニケーションと言語学、記号論、人類学などと結びつけることで、「人間環境」についての総合科学の構築を目指す。
●生態心理学の視点から、私たちの生を枠づける身体を考察する第1巻、身体と環境を縦横に結び付ける技術を探求する第2巻、人間同士が互いにより善き生を営むための術でもある倫理を構想する第3巻でシリーズを構成。


1 身体:環境とのエンカウンター  佐々木正人 編

 生態学的転回をもたらしたのは環境と切り結ぶ身体である。この30年間で、身体は2つの問題として再定義された。第一は多自由度制御の問題である。揺れ動く身体各部に下位系を同定し、それらの協調に制御の創発を観測する手法が編み出され、非線形運動を扱う領域が誕生した。第二が包囲の問題である。光の流動や、慣性力による接触など生態学的な情報の存在が明らかにされ、情報が特定する環境の高次レイアウト(アフォーダンス)が研究の射程に入ってきた。第1巻では、これら21世紀型の身体研究の動向を具体的に紹介する。身体の生態学的転回が、心の哲学、存在論、システム論、認知科学、プラグマティズム、運動学、発達心理学といった多様な学問分野にどのような可能性を与えうるのかを示し、広大な身体‐環境系の探索に乗り出す。

2 技術:身体を取り囲む人工環境  村田純一 編

 第2巻では、身体・技術・環境の関係のあり方を空間、運動、そして道具の使用と制作という観点から解明する。わたしたちの住みこんでいる空間は光や音が固有の仕方で満ちることによって、知覚・感覚のあり方を導き、それらと結びついた身体運動の様態を育むことになる。環境のなかでの、そして環境についての知覚と運動に関する生態学的現象学の観点からの成果をもとに、具体的な道具の使用と設計に関するヒントを獲得する。この場合の設計は、ユニバーサルデザインの実践が教えるように、設計者のみがイニシアチブを握るのではなく、設計者と使用者との不断の共同作業のなかでのみ実現可能なものである。こうして、身体・技術・環境の連関には、人間同士の関係が不可分に入り込むことは避けられず、それらが多様に相関していく様を考察する。

3 倫理:人類のアフォーダンス  河野哲也 編

 ギブソンによれば、あらゆる社会的行動とは人間同士のアフォーダンスの精緻化である。社会的アフォーダンスは、人間同士の直接の相互作用とその制御(制度、規範)および、人間関係を設定する環境の改変に関わっている。倫理とは善き人間関係のことであり、それは、人間関係を多様に発展させるに適宜な社会的アフォーダンスから創発する。そして倫理学は、法や理念についての理論だけではなく、社会的アフォーダンスを協同的に制御する技術を必要とする。第3巻では、人間性の定義となるところの人間同士の社会的関係性、すなわち、意思伝達、言語、記号、看護、教育、文化、政治などに関わる人間関係についてギブソニアンの立場から分析し、環境における人、物(自然/人工物)、制度の相互作用の関係性を価値最適化することで、「生態学的倫理学」の構築を目指す。



 

シリーズ刊行にあたって
 (以下、「シリーズ刊行にあたって」より抜粋)

 本シリーズは、生態心理学を理論的中核としながら、それを人間環境についての総合科学へと発展させるための理論的な基盤作りを目的としたものである。
 環境問題は、現在、全人類的かつ緊急の課題としてわたしたちに立ちはだかっている。そこで問われているのは、地球温暖化・森林伐採・生物種多様性の減少などの自然環境の危機である。そしてこのような危機がもたらされることになったのも、わたしたち人間には、自分の周辺の環境を自ら改変し、多かれ少なかれ、人間化された環境(人間環境・人工環境)のなかに住まうという特徴が備わっているからである。とくに現代社会ではその傾向が強く現れることになり、人間存在の基本構造は「人間環境?内?存在」であることが顕著になっている。
 人間環境は集団的に形成される。人間環境とは、人工物によって空間的に形象化され、人間関係がそこで展開され、人間関係によって維持され、社会制度(法、習俗、慣習)がそれを規範的に制御しているところの物理的な環境である。人間環境は、ある範囲の人間集団によって社会的かつ歴史的に形成され、個々の人間はそのなかに生まれ、成長し、生活する。人間環境の構成要素、すなわち、人工物、人間関係、社会制度は単なる意味や価値として存在しているばかりではなく、それぞれが人や物を動かす効力(広い意味での因果的効果)を持っている。それゆえに、人間環境は、社会的・文化的な存在であると同時に、物理的な存在である。(中略)
 本シリーズで追求したいのは、集団的に形成された人間環境のあり方を記述し、人間個々人がその人間環境とどのような関係性をとり結んでいるかを明らかにし、最終的に、どのような人間環境を構築・再構築すべきかという規範的な問題を探求することである。すなわち、「人間環境の環境問題」とは何であり、それをどう解決すべきか考察することである。(中略)
 本シリーズでは、人間環境を研究するための基本的な方法論を、ジェームズ・ギブソンの生態心理学に求める。(中略)生態心理学は、内在的で外部からアクセスできない領域としての「心」を認めない。だが、生態心理学は、刺激と反応の線形的で因果的な結びつきとして人間を捉える行動主義とも異なる。ギブソンは、人間を、意味や価値に満ちた環境のなかで、それらに関する情報に基づいて行為する存在として捉えることを提案する。(中略)
 本シリーズの3巻を通して、身体、技術、倫理をテーマにして人間と環境との相互作用のあり方に光を当てることが試みられているが、どの場合にも、基本的な視点は「構築」に向けられている。(中略)しかしそうした「構築」の面には必ず他方で「失敗」「危険」「破壊」が伴うことにも目を向けなければならない。そうしたネガティブな事態は、今回のような日常生活を根底から破壊するような大災害の場合で顕著になるが、しかしそれだけではなく、日常的な生活の各場面でも見られることである。人間環境の構築はつねにこうした脆弱性を考慮に入れながら、同時に回復力(resilience)をどう確保するかに光を当てるものでなければならない。
 本シリーズにおける「環境内存在」解明の試みが、現在、多様な仕方で試みられている大震災と原発事故からの復旧・復興の取り組みへの、わずかなりとも支援となることを願っている。


各巻詳細

1 身体:環境とのエンカウンター

序章 意図・空気・場所――身体の生態学的転回   佐々木正人
第I部 発達と身体システム
第1章 発達――身体と環境の動的交差として 丸山 慎(駒沢女子大学)
第2章 運動発達と生態幾何学 山コア寛恵(立教大学)
第3章 ゴットリーブ――発達システム論 青山 慶(東京大学)
第II部 生態学的情報の探求
第4章 協応する身体 工藤和俊(東京大学)
第5章 人とクルマの知覚論 三嶋博之(早稲田大学)
第6章 ずらし、デバイス、スタジオ 池上高志(東京大学)
第III部 生態心理学の哲学的源流と展開
第7章 変化の資源 野中哲士(吉備国際大学)
第8章 「頭の外」で考えることはできるか? 宮原克典(立教大学/日本学術振興会)
第9章 プラグマティズムとギブソン 伊藤邦武(京都大学)
終章 魂の科学としての身体論――身身問題のために 染谷昌義


2 技術:身体を取り囲む人工環境

序章 知覚・技術・環境――技術論の生態学的転回   村田純一
第I部 環境に住まう
第1章 現象としての光と建築   吉澤 望(東京理科大学)
第2章 サウンドテクスチャー――日常音環境の知覚を可能にする情報単位   伊藤精英(公立はこだて未来大学)
第3章 「つくる」と「つかう」を超えて   関 博紀(東京大学)
第II部 アフォーダンスを設計する
第4章 依存先の分散としての自立   熊谷晋一郎(東京大学)
第5章 動きの生まれる椅子を作る   野村寿子(株式会社ピーエーエス)
第6章 エコロジカルな看護――出産環境のアフォーダンス   谷津裕子(日本赤十字看護大学)
第7章 追いこまれるニーズ   川内美彦(東洋大学)
第III部 21世紀の技術哲学
第8章 スポーツとテクノロジー   長滝祥司(中京大学)
第9章 人工環境と切り結ぶ身体――メディア研究の生態学的転回   柴田 崇(北海学園大学)
終章 技術の哲学と〈人間中心的〉デザイン   直江清隆(東北大学)


3 倫理:人類のアフォーダンス

序章 海洋・回復・倫理――ウェザー・ワールドでの道徳実践   河野哲也
第I部 生態学的コミュニケーション
第1章 人とロボットとの生態学的コミュニケーション   岡田美智男(豊橋技術科学大学)
第2章 生態記号論から見た〈習慣〉の広がり――〈努力〉と〈共感〉の生態心理学へ   佐古仁志(大阪大学)
第3章 言語とアフォーダンス   本多 啓(神戸市外国語大学)
第4章 想起から見る語りのエコロジー   森 直久(札幌学院大学)
第II部 人間のアフォーダンス
第5章 臨床看護のアフォーダンス――苦痛のある身体の経験   川原由佳里(日本赤十字看護大学)
第6章 アフォーダンスの配置によって支えられる自己??ある自閉症スペクトラム   当事者の視点より   綾屋紗月(東京大学)
第III部 社会的アフォーダンス
第7章 アフォーダンスから制度的価値まで――人間的な環境の存在論   柏端達也(慶應義塾大学)
第8章 暴力の生態学的考察   萱野稔人(津田塾大学)
第9章 実践される文化――こどもの日常学習過程における大人との協働   石黒広昭(立教大学)
終章 可能性を尽くす楽しみ、可能性が広がる喜び――倫理としての生態心理学   柳澤田実(関西学院大学)
[座談会] エコロジカルターンへの/からの道
村田純一・佐々木正人・河野哲也・染谷昌義・池上高志・川内美彦・柳澤田実

知の生態学的転回【全3巻】
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