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伝統都市【全4巻】

[シリーズ著者]

吉田伸之

伊藤 毅

刊行にあたって

 現代が「都市の時代」といわれてすでに久しい.華やかな消費文化,高度な情報化社会,これらは都市を基盤として創造される.厖大な資本と富,対極にある労働力と貧困は,ともに都市域に集中し蓄積される.地球温暖化や巨大災害,不断に続く戦争やテロ,これらが都市を生きるふつうの市民のくらしを脅かす.21世紀を刻んだ世界の市民の歴史において,現代社会は,そしてその中心にある諸都市はどこに向かうのか.
 世界の諸都市は,いま,グローバル資本主義の強力なヘゲモニーのもと,急速に画一化し均質化しつつある.「社会主義」国でも「発展途上」国でも,都市は単一のタイプ,すなわち現代都市へと「発展」しているようにみえる.しかし一方で,それぞれが長い歴史の時間のなかに育んだ伝統社会や文化が乱暴に破壊され,都市を彩ってきたかけがえのない個性は死に瀕している.
 都市を生きるふつうの市民が,平和で安全で自由で民主的な環境のもとにくらすために,いま何をなすべきか.現在の都市をただあれこれと眺め平板に分析するだけでは,この問いに応えることはできない.画一的な相貌を呈する現代都市が,その基層に抱く過ぎ去った時間と空間の堆積,またかつて実在し,現在を過去から深く拘束する社会や文化のありよう,これらを育んだものを「伝統都市」と呼ぶ.こうした伝統都市についての深い理解なしに,現代都市を考えることはできない.こうしてこのシリーズは,現代都市を考えることと表裏のものとして,歴史の深みから伝統都市を見つめることをめざし,企画された.
 シリーズ全4巻は,都市イデア,権力とヘゲモニー,都市インフラ,分節構造という,4つの枠組からなる.各巻は,総論であるI部「ひろげる」,各論としてのII部「考える」,萌芽的研究としてのIII部「さぐる」の三部で構成している.取り上げた素材は,日本近世・近代や建築史を中心に,日本の古代・中世・近代,ヨーロッパの古典古代から近代まで,植民都市,中国,ラテンアメリカなどと多様である.これらが一つのシリーズに位置を得たのは,まさに現代都市論としての伝統都市という視角の所以なのである.
このシリーズが提供する伝統都市の事実や論点が,最適都市への未来を築く手がかりとなれば望外の喜びである. 吉田伸之・伊藤 毅


推薦者のことば

 

ユニークなコンセプトのもとで     ――樺山紘一(印刷博物館館長)

 かつて,都市についての誤解があった.都市こそは,伝統の枷から自由となった楽園であると.過去からの切断によって,普遍的な未来像を描けると.これは,まったくの思いちがいである.
 都市は,なににもまして深く伝統に根ざした社会と文化の貯水槽だ.それぞれの歴史のなかで育まれ,それぞれの地域に特性をあたえる切り札である.
 「伝統都市」というユニークなコンセプトのもとで,諸分野と諸世界の都市を通観しようとするシリ-ズ.わたしたちは,ここから都市伝統の究明と保全のための,重要な手掛かりをみつけることができるだろう.期待がたかまる.

読者をわくわくさせる企画     ――御厨 貴(東京大学先端科学技術研究センター教授)

 過去と現代を切り離すことで,そして各々を囲いこむことで,研究と称した時代は終わった.今や現代を知るためにこそ,過去は呼びさまされる.現代都市を知るための伝統都市の掘りおこし.それをイデア,権力,インフラ,構造の4つの視点から,「ひろげる」「考える」「さぐる」という共通の方法で串ざしにし,個々の論稿の意味連関を明らかにしようという,野心的試みだ.
 書き手も老壮青を揃え,専門も建築史,日本史,西洋史など乱取りの様相を呈する.今どきめずらしい読者をわくわくさせる企画だ.



第1巻 イデア

都市の社会=空間は,意識されるか否かによらず,つねに特定のイデアにもとづいて企画され,また改造される.宗教コスモロジー,公権力の構造理念,市民的あるいは階級的な共同の観念・ユートピアなどが伝統都市には積層し,せめぎあう.本巻では,伝統都市を解読するキーワードとして〈イデア〉を積極的に位置づけ,都市の社会=空間に重層するイデアの解読,イデアの担い手と実行主体,そして現代都市イデアによる解体と相剋から,都市イデアを浮かびあがらせる.

第2巻 権力とヘゲモニー

伝統都市における支配権力や社会的権力,あるいはヘゲモニー主体の具体相をとりあげ,社会的結合論の視点から都市権力論の方法・論点をさぐる.都市の権力は,都市を基盤とする広域支配を担う権力機構,都市内行政の権力主体,社会レベルにおける私的権力のヘゲモニーなど多義的である.本巻では,個別的な都市事例を素材とし,狭義の権力構造から,権力の空間,都市社会の統合と秩序化の諸局面,および社会との相剋,移行期における変容・変革などの問題にせまる.

第3巻 インフラ

都市を巨大な人工物とみたとき,都市の骨格をなす道路や橋,河川・運河・水路などの基幹施設,都市生活の生命線となる上水道や燃料,不断の管理によって都市機能を維持する塵芥や下水の処理などが有効に稼動していることが要求される.本巻では,都市を物的に成り立たせているさまざまな局面に焦点を当て,その全工程,それを担った社会集団を念頭に置きながら,インフラのもつ空間的・社会的意味を伝統都市のなかに探り,その近現代的変容の諸相を描く.

第4巻 分節構造

都市における社会=空間構造の基盤を構成するのは多様で個性的な社会的結合体である.伝統都市において,血縁・地縁・職業・宗教・文化などのさまざまな契機によって形成される諸集団が,相互に複層的な関係をもつことによって生みだされる単位社会のあり様を抽出し,その分節的な社会=空間構造の特質について具体的に考察する.そして,伝統都市間の類型的比較を試み,あわせて,近代への移行期における分節構造の変容過程の特質を明らかにする.




各巻詳細

第1巻 イデア

 序 方法としての都市イデア  伊藤毅(東京大学)
I ひろげる
 1 移行期の都市イデア 伊藤毅
 2 地中海都市 陣内秀信(法政大学)
 3 都市図屏風とイデア 杉森哲也(放送大学)
II 考える
 1 豊臣秀吉の京都改造と「西京」 三枝暁子(立命館大学)
 2 萩城下の都市民衆世界 森下 徹(山口大学)
 3 幕末・明治初期の横浜 青木祐介(横浜都市発展記念館)
 4 近代移行期の東京 松山恵(明治大学)
 5 社会主義の都市イデア 池田嘉郎(東京理科大学)
III さぐる
 1 開京 禹成勲 (七宝建設)
 2 バスティード 加藤玄(日本女子大学)
 3 町家  高村雅彦(法政大学)
 4 与板  朴澤直秀(岐阜大学)
 5 オラン  工藤晶人(大阪大学特任研究員)


第2巻 権力とヘゲモニー

 序 都市の権力とヘゲモニー 吉田伸之(東京大学)
I ひろげる
 1 武士と都市 五味文彦(放送大学)
 2 都市法 塚田 孝(大阪市大学)
 3 革命前夜のベルリン 山根徹也(横浜市大学)
II 考える
 1 アテナイ民主政の警察機能と市民 橋場 弦(東京大学)
 2 君主制フィレンツェの都市改造 野口昌夫(東京芸術大学)
 3 都市周縁の権力 高橋慎一朗(東京大学)
 4 解体される権力 横山百合子(帝京大学)
 5 近代中国の租界 吉澤誠一郎(東京大学)
III さぐる
 1 バグダード 清水和裕(九州大学)
 2 ペテルブルク 青島陽子(ITP派遣生)
 3 長岡と蔵王 武部愛子(東京大学学術支援職員)
 4 軍都金沢 本康宏史(石川県立博物館)


第3巻 インフラ

 序 都市インフラと伝統都市 伊藤 毅(東京大学)
I ひろげる
 1 運河都市 鈴木博之(青山学院大学)
 2 近代市街橋のデザイン 篠原 修(政策研究大学院大学)
II 考える
 1 古代都市街路 伊藤重剛(熊本大学)
 2 城下町 岩本 馨(京都工芸繊維大学)
 3 藩邸 岩淵令治(国立歴史民俗博物館)
 4 寺内 杉森玲子(東京大学)
 5 都市再開発 初田香成(東京大学)
III さぐる
 1 道 宇佐見隆之(滋賀大学)
 2 穴蔵 谷川章雄(早稲田大学)
 3 ニューゲト監獄 栗田和典(静岡県立大学)
 4 高輪海岸  吉田伸之(東京大学)
 5 不動産 森田貴子(早稲田大学)


第4巻 分節構造

 序 ソシアビリテと分節構造 吉田伸之(東京大学)
I ひろげる
 1 江戸・内・寺領構造 吉田伸之
 2 聖俗の結合 近藤和彦(東京大学)
 3 都市空間の分節把握 伊藤裕久(東京理科大学)
II 考える
 1 中世ジェノヴァの「家」 亀長洋子(学習院大学)
 2 近世パリの街区 高澤紀恵(国際基督教大学)
 3 胡同と排泄物処理システム 熊遠報(早稲田大学)
 4 近世湊町と地域特性 吉田ゆり子(東京外国語大学)
 5 明治初年の遊廓社会 佐賀 朝(大阪市立大学)
III さぐる
 1 ミドルマン 岩間俊彦(首都大学東京)
 2 ベシンダ 飯島みどり(立教大学)
 3 社家 竹ノ内雅人(飯田市歴史研究所)
 4 浜人 山下聡一(大阪市立大学GCOE特別研究員)
 5 囃子方 佐藤かつら(鶴見大学)

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