シリーズ20世紀中国史【全4巻】
第1巻 中華世界と近代
19世紀から20世紀初めにかけて、中国は「西洋」「近代」と本格的に対面し、「伝統」体制の変容や再編を経験した。だが、変化の様態は多様かつ重層的であり、体制や構造の変化しない部分もそこかしこに見出される。本巻では、中華世界の構造と近代におけるその変容、19世紀以降の社会秩序の動態と再編の過程、ナショナリズムと文化変容、という三つの側面から、「不変」と「変」、「内」と「外」、「伝統」と「近代」が錯綜しモザイク状に入りまじる20世紀中国の歴史を清朝時代と接続しつつ、長期的スパンで俯瞰する視座を提供する。
第2巻 近代性の構造
20世紀前半の中国は、欧米や日本との密接な関係のなかで、王朝体制の崩壊に象徴される政治的変化、工業化の模索にみられる経済的変化を経験した。すなわち、中国はこの時期、近代化に向けて大きく舵を切った。そして、この過程は社会の制度化の過程でもあった。本巻では、こうした中国社会の変化を中央や地方のありかた、国際社会との関係、さらには領土認識という政治空間の変化、農村や都市における社会秩序の再編、近代的な経済秩序や技術・観念との遭遇、から明らかにし、中国における「近代性の構造」の様相を具体的に示す。
第3巻 グローバル化と中国
日中戦争、第二次大戦、朝鮮戦争、東西冷戦が続く苛烈な環境下、中国は、すでに1930年代の国民党政権時代から統制計画経済を軸にした国づくりに望みを託し、50年代以降、共産党政権の下で大躍進、さらには文化大革命という苦い蹉跌を繰り返した。それに対し70年代末の転換以降、グローバル化(中国語の全球化)に対応し「改革・開放」の新たな国造りが進んでいる。本巻は、政治システムと政治過程、思想と文化の空間、社会経済と民衆、という三つの側面から、その全体像を歴史的に明らかにする。
第4巻 現代中国と歴史学
変貌する現代中国を広い視野のなかで認識すべく、内外の中国史研究も面目を一新した。今までにない視点と方法が提起され、多種多様な歴史学が進展している。その最前線を中国、台湾、アメリカ、韓国および日本に追い、背景にある歴史学研究の方法の変化、政治的状況や国際関係の変化などを検討する。また、本シリーズを出発点としてより理解をふかめるための手がかりとして、20世紀中国史関連年表と20世紀中国史文献目録、および全巻を鳥瞰する総索引を付す。
各巻詳細
第1巻 中華世界と近代
総論 持続・変容する世界および他者との邂逅 村田雄二郎(東京大学)
第I部 中華世界の構造と変容
1 清末の対外体制と対外関係 岡本隆司(京都府立大学)
2 中国的世界像の変容と再編 茂木敏夫(東京女子大学)
3 交通通信と帝国システムの再編 千葉正史(明治学院大学)
第II部 社会経済の動態と再編
4 沿海社会と経済秩序の変容 村上 衛(横浜国立大学)
5 清代後期における社会経済の動態 吉澤誠一郎(東京大学)
6 中華帝国財政の近代化 岩井茂樹(京都大学)
第III部 ナショナリズムと文化変容
7 辛亥革命の心性――湖南省の民衆文化を中心に 藤谷浩悦(東京女学館大学)
8 「藩部」と「内地」――20世紀前半の内モンゴル 広川佐保(新潟大学)
9 近代中国ナショナリズムの感情・思想・運動 黄興濤(中国人民大学)(小野寺史郎訳)
10 中華民族論の系譜 村田雄二郎
第2巻 近代性の構造
第I部 政治空間の再編
1 政治制度の変遷と中央・地方関係 金子 肇(下関市立大学)
2 地域社会の構造と変動 田中比呂志(東京学芸大学)
3 国際社会と中国外交 唐啓華(国立政治大学)(戸部健訳)
4 歴史学者と国土意識 吉開将人(北海道大学)
第II部 社会秩序の変容
5 農村社会と政治文化 笹川裕史(埼玉大学)
6 近代教育と社会変容 高田幸男(明治大学)
7 都市中間層の形成と大衆の時代 岩間一弘(千葉商科大学)
第III部 近代化の位相
8 中国と世界経済 城山智子(一橋大学)
9 通信メディアの展開と国際関係 貴志俊彦(神奈川大学)
10 衛生の制度化と近代性の連鎖 飯島 渉
第3巻 グローバル化と中国
総論 全球化の奔流と主体としての中国 久保 亨(信州大学)
第I部 政治システムと政治過程
1 社会主義下の党・国家と社会 高橋伸夫(慶應義塾大学)
2 大陸と台湾の一党独裁システム 松田康博(東京大学)
3 戦後の国際環境と外交 川島 真(東京大学)
4 近代法制の形成過程 高見澤磨(東京大学)
第II部 思想と文化の空間
5 リベラリズムとナショナリズム 水羽信男(広島大学)
6 言論・出版の自由 中村元哉(南山大学)
第III部 社会経済と民衆
7 近代的企業の発展 富澤芳亜(島根大学)
8 農村社会からみた土地改革 山本 真(筑波大学)
9 生殖コントロールとジェンダー 小浜正子(日本大学)
10 統制と開放をめぐる経済史 久保 亨(信州大学)
第4巻 現代中国と歴史学
はじめに
1 日本の20世紀中国史研究 久保 亨・村田雄二郎・飯島 渉
2 大陸中国の民国史研究 陳紅民(浙江大学)(小川唯訳)
3 世紀転換期台湾の中国近現代史研究 張力(中央研究院)(光田剛訳)
4 近代中国研究の史料と史学 桑兵(中山大学)(竹元規人訳)
5 韓国の中国認識と中国研究 白永瑞(延世大学)(金友子訳)
6 アメリカの中国近現代史研究 リンダ・グローブ(上智大学)(須藤瑞代訳)
7 文明史としての中国近現代史 上田 信(立教大学)
20世紀中国史関連年表
20世紀中国史文献目録
総索引
2009年は、中華人民共和国の成立からちょうど60年にあたる。社会主義化を進めた前半の30年と改革・開放により市場経済化を進めた後半の30年、それはまさに疾風怒濤のふきあれる激動の時代であった。そして21世紀の今日、中国は国際社会において決定的な重みを持つ存在となった。さまざまなメディアの報道のなかで、また政治学、経済学、社会学などの学問領域で、「中国」が論じられない日はない。
しかし、めざましい成長の反面、都市と農村、沿海と内陸などの地域的な格差は依然として大きく、また、階層間の貧富の格差も表面化している。そして、民衆の政治参加のあり方をめぐる問題や環境問題など、中国が直面する課題はまさに山積している。他方、台湾(中華民国)の国家や政治も大きく変化した。国民党から民進党へ、そして国民党へという政権交代は、台湾政治の流動化を象徴している。
では、中国社会(大陸の中華人民共和国や香港、台湾)は、いったいこれからどこに向かおうとしているのか? また、中国と日本や世界との関係は今後どのようになっていくのだろうか?
こうした素朴ではあるが大切な問いを発するとき、歴史をふりかえることこそ、実はもっとも有効である。なぜなら、現在の中国がかかえるさまざまな問題とは、社会主義化や改革・開放のなかで新たに登場したわけではなく、より構造的歴史的なものだからである。実際のところ、問題の多くは、近代に先行する清朝中国の時代に、さらには長い王朝体制のなかで蓄積されてきた「歴史の重み」を抱えている。現在の中国が直面している課題の多くは、社会科学的な、あるいは自然科学的な研究方法に歴史学的なアプローチを組み合わせることによって、はじめてその本質を理解することができるに違いない。
本シリーズは、以上のような視点から、「中華世界」と近代の邂逅、中国の直面した「近代性」の構造、さらには「グローバル化」のなかでの中国の変化に注目しながら、「20世紀中国」の歴史と現在の中国を重ね合わせて考える手がかりを示し、中国への理解を深め、ひいては、中国と日本、中国と世界のよりよい関係の構築に寄与することを目的としている。
編集委員 飯島 渉・久保 亨・村田雄二郎