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希望学【全4巻】

希望学【全4巻】

[シリーズ著者]

東大社研

玄田有史

宇野重規

中村尚史

推薦者のことば

 

村上 龍(作家)

かつて希望は,焼け跡にまかれた種子のようなものだった.
多くの人がその果実を味わうことができた.今は違う.
希望の芽を育むためには,個人と社会,それぞれの戦略が必要だ.
この本はそのための果敢な挑戦の書である.

 



「希望学」刊行にあたって

 希望学は,希望と社会との関係を切り開く,新しい挑戦である.

 希望の意味,そして希望が社会に育まれる条件などを考察する希望学は,経済学,社会学,政治学,法学,歴史学,哲学,人類学などを総合した独自の研究である.理論研究にとどまらず希望学は,岩手県釜石市を対象に,他に類のない総合的な調査を実施するなど,地域密着の研究も行ってきた.
 失われた10年から世界同時不況に見舞われた現在(2009年)に至るまで,「希望は失われた」という言説は,社会に蔓延している.その理由は何だろう?
 収入や仕事などの経済要因に加え,年齢や健康なども希望には影響を及ぼす.景気停滞,人口減少,メンタル・医療問題など,いずれも希望喪失感の背景をなす.希望には,対人関係も深くかかわる.コミュニティや家族の変容,個人の社会的孤立といった問題も,希望の喪失を招いてきた.希望学は経済的・社会的要因と希望の相互作用を丹念に解きほぐしていく.
 希望は,未来を展望するための行動指針と同時に,挫折を含む過去を想起し,現実を受けとめるための想像力の源泉でもある.ときに効率性の尺度すらスルリと乗り超える希望は,幸福の追求や行動を喚起するための「物語」である.
 哲学者ブロッホが語る「まだない存在」としての希望が象徴するように,希望はいつもどこかパラドキシカルだ.「まだない」からこそ,求めるべき対象として,希望は「存在」する.希望は,画一的な理解を拒絶する「怪物」である.個人の次元で語るのと,社会の次元で語るのでは,希望の意味はおのずと異なる.その違いを理解することなく,政治が安易に希望を語るのには危険性すら孕んでいる.希望に対する理解の共有が,今こそ求められている.
 心の問題であると同時に社会的な次元を持つ希望.「まだない」ものでありながら,現在の人々の行動を支える希望.そんな希望の両義性を,希望学は多様な角度から探っていく.さらに希望学の釜石調査は,地域の希望を模索するとき,ローカル・アイデンティティを基盤に対話とネットワークの形成が鍵を握ることなどを具体的に明らかにする.
 「希望学」(全4巻)は,希望学の研究成果から特に重要な内容を厳選,書き下ろしを多数加えて構成される.読者が,希望を通じて社会科学全般へ関心が高まるよう工夫もしている.そこから社会や地域の新たな考察に不可欠な「希望」の姿が明らかに示される.

 「希望学」を知らずして,今後,希望は語れない.

東京大学社会科学研究所   

 





第1巻 希望を語る――社会科学の新たな地平へ  東大社研・玄田有史・宇野重規 編

はたして希望を社会科学の問題として扱うことはできるのか.希望は単に個人の心理の問題に尽きるものではなく,社会的な次元を有し,それゆえに社会科学の対象となりうるという信念こそが,希望学を進める原動力となってきた.本巻は,この信念を自ら再検討すべく,現代という時代にあって,社会科学の問題として希望を論じることの意義と可能性を考える.

第2巻 希望の再生――釜石の歴史と産業が語るもの  東大社研・玄田有史・中村尚史 編

釜石市は,高齢化,人口減,産業構造の転換など,日本社会に迫り来る近未来を既に体現しつつある町である.現代において希望の問題を考えるにあたって,「地域」は欠かすことができない視座である.釜石市との出会いは,まさにこのような問題意識を現実のものとするために絶好の機会を与えてくれた.本巻では,希望学釜石調査のうち,特にその歴史と第一次・第二次・第三次産業を含む,多様な産業をめぐる諸考察を収録する.

第3巻 希望をつなぐ――釜石からみた地域社会の未来  東大社研・玄田有史・中村尚史 編

本巻は第2巻における検討を踏まえ,、さらに釜石という地域社会の実態と,そこに生まれ育った人々の軌跡から希望の行方を把握しようとするものである.釜石の住民個々の生活にとっての重要な問題は,地域社会の未来を決定するインパクトを持っている.それはまぎれもなく,釜石のみならず,現代日本の地域社会が共有する問題である.市内の高校を対象にした貴重な同窓会調査の結果得られた知見についても,この巻で紹介する.

第4巻 希望のはじまり――流動化する世界で  東大社研・玄田有史・宇野重規 編

本巻を構成する諸論文の舞台は,日本のみならず,世界の諸地域に広がる.また扱う諸問題は,家族,宗教,開発,多文化主義,若者,生活保障,医療,性売買など,きわめて多方面にまたがる.このような多様性は,なぜ「希望」が今の時代を象徴する「時の言葉」となったのかを,雄弁に説明する.浮かび上がるのは,希望が日本だけではなく世界の各地で,しかも実に多様な生活の諸側面において問題になりつつあるという現実である.



各巻詳細

第1巻 希望を語る

 はしがき 「希望を語る」ということ(玄田有史・宇野重規)
第I部 希望とは何だろうか
 第1章 希望と変革――いま、希望を語るとすれば(広渡清吾/東京大学)
 第2章 希望研究の系譜――希望はいかに語られてきたか(リチャード・スウェッドバーグ/コーネル大学)
 第3章 アジアの幸福と希望――「国民の幸福」戦略と個人の新たな選択(末廣昭/東京大学)
第II部 日本における希望の行方
 第4章 データが語る日本の希望――可能性、関係性、物語性(玄田有史/東京大学)
 第5章 「希望がない」ということ――戦後日本と「改革」の時代(仁田道夫/東京大学)
 第6章 労働信仰の魔法とそれを解く法――希望の意義と危険性(水町勇一郎/東京大学)
第III部 社会科学は希望を語れるか
 第7章 経済学からみた希望学――新たな地平を開くために(松村敏弘/東京大学)
 第8章 ハンナ・アーレントと「想起」の政治――記憶の中にある希望(岡野八代/立命館大学)
 第9章 社会科学において希望を語るとは――社会と個人の新たな結節点(宇野重規/東京大学)
 あとがき 社会科学の新たな地平へ(玄田有史・宇野重規)

第2巻 希望の再生

 はしがき 日本の近未来としての釜石(玄田有史・中村尚史)
 序章 釜石で希望を考える――希望学・釜石調査の概要(中村尚史/東京大学)
第I部 希望の来歴――歴史 第1章 記憶の源流――釜石地域の近代史(中村尚史)
 第2章 組織の希望――釜石製鉄所の過去と現在(青木宏之/高知短期大学、梅崎修/法政大学、仁田道夫/東京大学)
 第3章 釜石市長としての鈴木東民――地域の福祉政治とローカル・アイデンティティ(宇野重規/東京大学)
第II部 希望の再生――地域振興
 第4章 企業誘致と地場企業の自立(中村圭介/東京大学)
 第5章 家族自営漁業における希望と自制(加瀬和俊/東京大学)
 第6章 地域経済活性化と第三次産業の振興(橘川武郎/一橋大学)
 第7章 グリーンツーリズムが育てるもの(大堀研/東京大学)
 あとがき(希望学・釜石調査 関係者一同)

第3巻 希望をつなぐ

 はしがき 地域の希望を考えるために(中村尚史・玄田有史)
第I部 希望をつなぐ――地域社会
 第1章 地域住民のトラブル経験と相談・支援のネットワーク(佐藤岩夫/東京大学)
 第2章 地方政治と議会内会派――多様な利益をつなぐ政治主体(上神貴佳/高知大学)
 第3章 誰が釜石市を「つくる」のか――地域生活応援システムと住民運動(大堀研/東京大学)
 第4章 スポーツによる地域再生の可能性――釜石におけるラグビーへの期待と現実(宮島良明/東京大学)
第II部 希望にむかって――市民の動向
 第5章 同窓会調査の概要とその重要性(永井暁子/日本女子大)
 第6章 釜石市出身者の地域移動とライフコース――釜石を離れる・釜石に戻る(西野淑美/日本女子大学)
 第7章 地域からの転出と「Uターン」の背景――誰がいつ戻るのか(石倉義博/早稲田大学)
 第8章 釜石の女性を取り巻く現状と課題(土田とも子/東京大学)
 第9章 釜石出身者の「誇り」と「希望」を考える(玄田有史)
 総 括 地域の希望を考える――希望学釜石調査座談会の記録(竹村祥子/岩手大学、玄田有史、中村尚史、宇野重規、中村圭介、仁田道夫、土田とも子、西野淑美、青木宏之、永井暁子、梅崎修、石倉義博、石川耕三)
 あとがき (希望学・釜石調査 関係者一同)

第4巻 希望のはじまり

 はしがき 流動化する世界における希望(宇野重規)
第I部 人類学がみつけた希望
 第1章 オバマの希望(宮崎広和/コーネル大学)
 第2章 法に希望はあるか?(アナリース・ライルズ/コーネル大学)
 第3章 法と夢想と希望――フィジーの公立老人ホームで考える(春日直樹/大阪大学)
第II部 成長の向こうにある希望
 第4章 開発学にとっての繁栄、幸福と希望の意味――ブータンと水俣の事例から(草郷孝好/大阪大学)
 第5章 ホープ・ウィズ・ウルブズ――植民地主義者は交渉できるか(ガッサン・ハージ/シドニー大学)
 第6章 社会性のいま――感情、家族、そして日本の子ども(アン・アリソン/デューク大学)
第III部 福祉社会の新たな希望
 第7章 希望が台無し――逆機能する生活保障システム(大沢真理/東京大学)
 第8章 足場とブレーキ――希望の条件としてのベーシック・インカム(田村哲樹/名古屋大学)
第IV部 医療と性における希望
 第9章 先端医療は「希望」か?(仲正昌樹/金沢大学)
 第10章 性をめぐる新たな権利と希望(中里見博/福島大学)
 あとがき 希望学――始まりの終わり・終わりの始まり(玄田有史)

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