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近代日本の思想家【全11巻】

刊行にあたって

 ふたつの「世紀の送迎」の後に

 〇〇年大晦日,東京三田の慶応義塾で「世紀の送迎会」が始まり,「逝けよ一九世紀」が朗読された.〇一年元旦午前〇時,仕掛け花火により「二十センチュリー」の文字が夜空に浮かんだ.ここで新世紀に立ち会った諭吉は二月に,「一年有半」の兆民は一二月に,世を去った.「送った一九世紀」はどのような時代であったのか,「迎えた二〇世紀」はどのような時代であったのか.
 本シリーズにより,諭吉・兆民はじめ,あまりにも早く逝いた透谷,四五年敗戦前後に死した西田・三木などを含めた思想家一一人を通して,日本にとっての近代,近代にとっての日本,について,「迎えた二一世紀」の光芒のなかで考える手がかりを得たい.

 半世紀を超えて完結

 二〇〇八年初春に刊行する『吉野作造』をもって,本シリーズが完結する.刊行開始は一九五八年.半世紀を超えての刊了である.「近代日本の思想家」に対して,現代がいかなる角度から,いかなる側面に,光を当てえるか.ここに新装刊+新刊として,われらの思想資産を読者世界におくる.



第1巻 福沢諭吉  遠山茂樹

開国,明治維新にあたり,いち早く文明開化の思想的啓蒙にのり出した福沢諭吉の発言は,しかし時代を鋭敏に反映して必ずしも一貫しない.その著作を逐一検討しながら明治期日本の性格を解明する.[初版1970年]

第2巻 中江兆民  土方和雄

兆民ほど,その歿後の評価の多様な思想家は少ない.波瀾と矛盾にとんだ彼の生涯とその時代をつらぬく一本の糸を,本書によって探ることは,近代日本成立の鍵を理解するための有効な手引きとなる.[初版1958年]

第3巻 片山 潜  隅谷三喜男

片山潜の研究の第一人者である著者が,貴重な資料を駆使して,彼の思想と生涯について具体的に考察する.近代日本の歩みのなかにすぐれて行動的であった片山潜の軌跡が解明される.[初版1960年]

第4巻 森 鴎外  生松敬三

明治維新前夜の混乱期に生を受け,近代日本の急激な発展とともに自らも近代人となった鴎外は,儒学的漢学的教養と,近代合理主義的西欧的教養とのからみ合いにおいていかなる人間形成をはたしたのか.[初版1958年]

第5巻 夏目漱石  瀬沼茂樹

漱石の作品に親しむことなしに,漱石の思想も人も理解し究明しえないという信念から,著者が漱石の全作品に言及し,吟味し,整理した,漱石ハンドブックともいえる労作.[初版1962年]

第6巻 北村透谷  色川大吉

明治日本の文明開化と民衆の現実との間にあって苦闘し続けた戦士・詩人・思想家,北村透谷.本書は,その出発点を透谷研究におく歴史家が一気に書き下ろした渾身透谷論である.透谷没後百年の時空を経たいま,その思索の軌跡が鮮やかに浮かび上がる.[初版1994年]

第7巻 西田幾多郎  竹内良知

若き日の西田幾多郎の姿,とりわけその内面的思索の成長を豊富な資料と精緻な論証によって一つ一つ跡づけつつ,西田の思想的結晶である,『善の研究』成立の背景と思想的意味を浮き彫りにしたユニークな評伝.[初版1966年]

第8巻 河上 肇  古田 光

無我愛から出発して宗教的真理をもとめ,さらに科学的真理をたずねた求道のあとを辿って,思想の転換と人間形成の経過を明らかにし,彼を支えている精神的背景がいかなるものであったかを見極める.[初版1959年]

第9巻 三木 清  宮川 透

現代日本思想史上における三木清の位置を確定した労作.人格主義的ヒューマニズムから,ネオ・ヒューマニズムへ,あるいは「東亜協同体論」,あるいは「親鸞」.ついに戦後獄中に憤死した三木清の全貌を捉える.[初版1958年]

第10巻 戸坂 潤  平林康之

敗戦の年8月獄死するまでの戸坂潤の思索活動は,昭和思想史上の不滅の光である.本書は,彼の思想体系,その基底に流れる精神,彼の生きた時代を分析,解説,評価する.[初版1960年]

第11巻 吉野作造  松本三之介

「大正デモクラシー運動の思想的指導者」吉野の実像を新たな視点から描き出す.彼の思想形成の過程を丹念にたどり,そのデモクラシー論がもつ特質と,同時にそれが孕む矛盾を明らかにする.著者のこれまでの思想史研究をふまえた渾身の書下ろし.



推薦者のことば

 彼らの古びかたを見よ

鶴見俊輔

 黒船来航から百五十年.私たちは,近代日本思想史をその古びかたにおいて見ることができる.ここにとりあげられた十一人は,それぞれの持久力によって,二十一世紀初頭の日本人にうったえる.「……はもう古い」というせりふをあいもかわらずくりかえす現代日本の知識人の間にしっかりと立つ人びとの著作である.

一著者のことば
東京大学名誉教授・松本三之介

 『吉野作造』を何とか完成にまでこぎつけることができた.シリーズ「近代日本の思想家」の一冊として執筆依頼されてから,おおくの歳月が流れたものである.十数年前に『北村透谷』を色川大吉さんが出されてシリーズでの未刊は私一人となり,各方面にご迷惑をかけて心苦しく思っていたが,ようやく胸のつかえもとれたというところである.これまでは論文集が主であった私にとって,この本は初めての本格的書き下ろしで,その点でも感慨深い.
 私の『吉野作造』の刊行に先立って,既刊の10冊が新装版としてふたたび刊行されるという.近代日本の思想家に託した著者たちのそれぞれの思いを,今日的な状況のなかで問いなおし,新しい時代への展望に活かしていただければ幸いである.

企画者のことば
元編集者・山田宗睦

 このシリーズの第一冊は一九五八年に出た.敗戦の衝撃から十年以上がたち,世相はおちついてきていたが,それだけに,戦前の評価とはちがった,戦後独自の基準が欲しかった.近代日本の思想家に,どういう基準で誰を選ぶか.熱い議論の末,十一巻という形ができた.十でもなければ十二でもない.十一巻の形に熱い議論の痕跡がある.私が評論家に転じた後も,東京大学出版会は辛抱強く続巻を出し,五十年の後ついに全巻完成にこぎつけた.
 戦後という時代は今また次の時代に変貌しつつある.五十年もの経過をへて成った本シリーズは,戦後の基準を保ちながら,次の時代への試練にもたえ,二十一世紀の日本の進路を考えるのにかかせない思想家列伝となったのである.

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