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歴史の描き方【全3巻】

[シリーズ著者]

ひろたまさき 監修

キャロル・グラック 監修

第1巻 ナショナル・ヒストリーを学び捨てる  酒井直樹 編

本巻ではこれまで語られてきた日本「近代」像の根拠をみなおすことを試みる.この作業はあわせて,「近代」像を提示しつづけてきた歴史学(特に戦後日本歴史学)をも相対化し,歴史を叙述するとき,無意識につくりだしていた境界を意識し,そこから叙述を解き放していくことをめざす.そしてあらたな「日本」「近代」の叙述を試みる.

第2巻 戦後という地政学  西川祐子 編

「近代日本像の脱構築」へとりくもうとする意志は,そうした意志の生い立った戦後 歴史学という磁場そのものにも,そしてそこにある「戦後的なるもの」という自己諒 解そのものも対象とする.本巻では,そのことをことさらに取り上げようとするのが 目的である.「戦後」という概念による時期区分があたえてしまったイメージは一面 に過ぎないことを,さまざまな素材をもとに明らかにし,「戦後」を一新する.

第3巻 記憶が語りはじめる  冨山一郎 編

「記憶」「証言」「隠蔽記憶」「集合的忘却」などといった概念は,これまでであれば,歴史学の「科学性」や「客観性」という規範によってたちどころに退けられるか,疑わしいが捨て置くわけにはいかない「材料」として限定的な役回りを指定されるのがせいぜいであった.それらの概念がいまや,歴史叙述の可能性の根拠に関わる難問として,議論の前掲にせり出してきている.本巻は,戦争や植民地主義をめぐる証言,体験,表象の書き換えを手がかりとしながら,自覚的に歴史叙述の方法論あるいは方法意識の全面的な刷新を追究する.



刊行のことば

 わたしたち日米にまたがる執筆者は,「歴史学」という知の制度を,根本から問いなおしてみようとした.「歴史学」という学問の制度と,「歴史叙述」という営みの一切合財を,試練にさらしてみようとした.その作業は,それが一九九○年代から進められた仕事であるということによって,もう少し明確に性格づけられるだろう.おそらくこの時期は,歴史学一般への問いが,同時に戦後歴史学に対する批判ともなっていった時代といえよう.日本語圏では戦後歴史学批判として現れた問い直しは,アメリカにおいて「近代という牢獄」に懐疑的な立場を堅持しつつ思考してきたものにとっては,戦後世界戦略と地域研究との相関性を問い直し,批判的な実践を遂行するという課題であった.
 日米で別々に行われていたように見えたふたつの格闘が,九○年代にその異議申し立ての対象や方法の相関性によって出会うことになった.本シリーズは,アメリカの日本研究者と日本の研究者とが,たまたま共同出版に及んだというのではない.ひりつくようなそれぞれの問題意識に基づいて,実際に共同の研究作業に,学際的,越境的に取り組んできたものである.
 戦後歴史学も地域研究も,ある意味では「近代性」をトピックとはしてきていた.しかし,そこではつねに,近代そのものの規範性が問われることはなかった.「悪しき近代」に対して「良き近代」が,「全体主義的な逸脱」に対して「解放的な国民主義」が対照されることで,本来の「望ましい近代啓蒙」という価値は,手つかずに残された.近代は,それからの離脱できない,あたかも「文法」のごとき力でありうるかのように作動している.
 近代知に対して包括的な反省を加えようとするならば,しかもそれを歴史学と歴史叙述に即して考えていく場合には,「近代の文法」として現れてくる近代の「規範力」がいかに自明化し,作用するものであるのかに,ひたすら目を凝らすことが必要であるだろう.本シリーズの執筆者たちをあえてくくり上げるならば,その基本姿勢はまずそこにある.

 第一巻においては,まさにこの「近代の文法」が排他的に要求する国民主義の歴史学,国民国家の歴史叙述をとりあげ,それを批判する努力を「ナショナルヒストリーを学び捨てる」と表現した.そのことを個別の時代と具体的課題に即して遂行したのが,第二巻にある戦後の地政学という主題である.「戦後」とは,ただ第二次世界大戦以後の数十年のまとまりをさすばかりではなく,政治経済から,文化や個々人の感受性にまでおよぶ特別な規定力をもった時代編成として考えることができる.第三巻では,「記憶」をキーワードとして,これまで見えなかった問題を,植民地と帝国主義やエスニシティなどの問題を通じて明らかにしようとしている.時系列的には第一巻が近代の歴史,第二巻が戦後,第三巻が現在という配置になる.各巻の巻末には「座談会」を配して,各論文を相対化しうる視点を提起しようとしている.一見込み入った複雑な構成になっているが,それは読者とともに考えていくためのひとつの様式として工夫したつもりである.
 本シリーズは,わたしたちがこの転形期にいかなる可能性をも拾い上げて未来につなげていきたい,私たち自身を常に相対化しつつ,国境を越えたつながりを手繰り寄せたいという願望を示すものでもある.

二○○六年九月   ひろたまさき/キャロル・グラック

各巻詳細

第1巻 ナショナル・ヒストリーを学び捨てる

小序   酒井直樹
I 近代はどう描かれてきたか
 1 パンドラの箱――民衆思想史研究の課題   ひろたまさき(歴史研究者)
 2 鏡の館――アメリカの日本歴史研究   キャロル・グラック(コロンビア大学)
II イメージの解体へ
 3 近世の出版文化と「日本」   横田冬彦(京都橘大学)
 4 暴力の近代化   デビッド・ハウエル(プリンストン大学)
 5 日本史と国民的責任   酒井直樹(コーネル大学)
[座談会] キャロル・グラック+酒井直樹+成田龍一

第2巻 戦後という地政学

小序   西川祐子
I 占領と戦後イデオロギーの形成
 1 占領空間の戦争シンボル――国旗とGHQ   長志珠絵(神戸市外国語大学)
 2 主体性と動員――戦中から戦後へ   ヴィクター・コシュマン(コーネル大学)
 3 戦後新宗教の戦争理解――修養団捧誠会の場合   島薗進(東京大学)
II ジェンダー秩序の再編成
 4 日本家庭管理法――戦後日本における「新生活運動」   アンドリュー・ゴードン(ハーバード大学)
 5 戦後女性運動の地政学――「平和」と「女性」のあいだ(上野千鶴子)
III 「国民文学」の境界
 6 《国=家》の物語を組み替える――「戦後文学」としての在日朝鮮人文学   平田由美(大阪外国語大学)
 7 対抗(カウンター)的国民文学:大江健三郎の場合   西川祐子(京都文教大学)
[座談会]  西川祐子+上野千鶴子+ヴィクター・コシュマン

第3巻 記憶が語りはじめる

小序   冨山一郎
I 記憶とイメージ
 1 「証言」の時代の歴史学   成田龍一(日本女子大学)
 2 植民地支配後期の“朝鮮”映画における国民,血,自決/民族自決   タカシ・フジタニ(カリフォルニア大学)
 3 構成的な両義性――日本近代史におけるモダニズムとファシズムの存続性   ハリー・ハルトゥニアン(ニューヨーク大学)
 4 間=文化的イマジナリーにおけるオリエンタリズム――D・クロンネンバーグとW・ギブスンにおける蝶々伝説   ブレット・ド・バリー(コーネル大学)
II 記憶という主体
 5 「メタヒストリー」と物語の「真理」   岩崎稔(東京外国語大学)
 6 二つの破壊をめぐって   米山リサ(カリフォルニア大学)
 7 言葉の在処 と記憶における病の問題   冨山一郎(大阪大学)
[座談会]  岩崎稔+米山リサ+冨山一郎

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