国家の解体

ペレストロイカとソ連の最期

著者
塩川 伸明
ジャンル
人文科学  > 歴史
社会科学  > 政治
発売日
2021/03/04
ISBN
978-4-13-036282-5
判型・ページ数
A5 ・ 2394ページ
定価
41,800円(本体38,000円+税)
在庫
在庫あり
内容紹介
目次
著者紹介
1991年12月、ソ連の消滅。冷戦の中心であった特異な大国が、ペレストロイカと呼ばれる改革を経て、国家解体に行き着くこの重大事件を歴史的に解明する。15の共和国の独立にいたる紆余曲折の局面を詳細に分析し、複雑な相互関係がもたらした終焉の総合的な分析を試みる。現代史研究の第一人者による集大成。
【東京大学出版会創立70周年記念出版】

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【本書の特色】
◆政権中枢部だけでなく各共和国や自治州など多様なアクターの思惑や行動を重層的に描写することで、ソ連解体の全体像に迫る。
◆ペレストロイカの開始と急進化の過程を扱う第1部、ペレストロイカの急進化が連邦の分極化と遠心化を招く時期を対象とする第2部、8月政変から12月のソ連解体に至る最後の5か月を描く第3部からなる3部構成。
◆ロシアを中心とした旧ソ連各国に保管されている公文書、議会文書、統計集から、各地で発行されていた当時の新聞や回想録、欧米や日本で発行された関連文献まで膨大な資料・文献に基づき国家解体の過程を克明に描き出す。



■――――本書は最終的にソ連国家の解体に行き着いたペレストロイカの過程を、連邦制および民族問題に力点をおきながら解明しようと試みるものである。――――

【刊行にあたって】
 国家はどのようにして解体するのだろうか。政治的、経済的、社会的な危機が累積していたというような背景が容易に思い浮かぶ。しかし、そうした危機は必ずしも国家の解体に直結するものではない。政権は変わるかもしれないし、経済のあり方や社会の仕組みも変わるかもしれないが、それもたいていは同じ国家の中での変化である。
 もっとも、ソ連という国の場合には、そういった一般論にはとどまらない特殊性がある。特異なイデオロギーを奉じ、それに基づいて特異な政治経済体制をとっていたから、そのイデオロギーの虚妄性や体制の非効率性があらわになることで自ずと崩壊したのだ――多くの人がいだいているのは、こういうイメージだろう。だが、これもまた国家の解体を直ちに説明するものではない。ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアといった諸国はソ連と同様のイデオロギーと体制を投げ捨てたが、国家は解体しなかった。社会主義ポーランドが資本主義ポーランドになっただけである。では、社会主義ソ連が資本主義ソ連になる可能性はなかったのだろうか。
 そんなことはあるはずがないというのが大方の常識だろう。何といっても、ソ連こそは「マルクス=レーニン主義」「共産主義」の総本山であり、その国名もそのことを表現していた。1980年代後半に始まった、いわゆる「ペレストロイカ」と呼ばれる一連の改革も、社会主義の否定ではなく「社会主義の再生」を目指した「上からの改革」だった。
 ところが、そのようにして始まったペレストロイカは数年のうちに当初の想定を超えてエスカレートし、その末期においては、事実上の体制転換を目指すようになっていた。ソ連共産党指導部も社会民主主義政党への変容を模索し始めていた。もちろん、そこには種々の曖昧さや中途半端さがつきまとっており、その模索がどこまで本格的なものだったかには議論の余地がある。それにしても、そのような試みがあったということは事実である。何も、「その試みが成功していたならよかったのに」という未練論を述べようというのではない。ここで言いたいのは、そういう試みがあったという事実自体がほとんど知られていないために、「どのようにして」という問いそのものも滅多に立てられることがなく、ソ連解体という巨大な出来事が単純に自明視され、そのプロセスに関する立ち入った解明もなされないままに放置されているということである。
 本書はこの問いに、多民族連邦制国家の分解という角度から迫ろうとしたものである。課題が巨大すぎるため、さまざまな限界をかかえた試論にとどまるが、とにかく世界的にも未踏の境地に挑戦したつもりである。読者がその挑戦を受けとめてくださることを期待したい。(著 者)

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はしがき

序 章 ペレストロイカと国家の解体――本書の課題と構成


第1部 ペレストロイカの開始と展開

第1章 ペレストロイカの開始と初期の民族問題
第1節 ペレストロイカの開始――1985-87年
 1 ゴルバチョフ政権の発足からペレストロイカ始動へ
 2 ペレストロイカ初期の民族問題と民族政策
第2節 政治改革の始まり――1988-89年前半
 1 政治改革への着手と連邦制問題の浮上
 2 論争の本格化
第3節 1989年後半
 1 ペレストロイカ拡大の継続と社会的不安の浮上
 2 第一回ソ連人民代議員大会における民族問題
 3 9月総会と民族問題政綱
 4 共和国の選挙制度改革および第二回ソ連人民代議員大会

第2章 バルト三国
第1節 ペレストロイカ初期まで
 1 歴史的背景
 2 ペレストロイカの開始とバルト諸国
第2節 人民戦線の結成および主権宣言
 1 人民戦線運動の開始――1988年春‐初夏 
 2 人民戦線運動の拡大と共産党の変容――1988年夏
 3 人民戦線創立大会――1988年10月 
 4 インテル運動の開始
第3節 人民戦線運動の拡大と独立論の高まり
 1 ソ連憲法討論とエストニア主権宣言
 2 独立論の公然化と政治対抗の激化
 3 共和国内少数派問題の深刻化――共和国国籍・選挙権問題および内部自治地域創設論
 4 独立論の更なる強まり――1989年秋から年末にかけて

第3章 中央アジア
第1節 歴史的背景 
 1 ソヴェト中央アジアの成立 
 2 民族構成および言語状況
第2節 ゴルバチョフ政権最初期の中央アジア――1985-88年
 1 幹部更迭とその波紋――アルマアタ暴動およびウズベク汚職事件を中心に
 2 環境問題と社会問題
第3節 ペレストロイカの展開と中央アジア――1989年
 1 全般的情勢
 2 民族間関係の複雑化

第4章 ハイアスタン(アルメニア)およびアゼルバイジャン
第1節 南コーカサス(ザカフカース)概観 
 1 ソヴェト政権初期まで
 2 ソヴェト政権下のザカフカース
第2節 ナゴルノ=カラバフ紛争およびアルメニア=アゼルバイジャン関係
 1 紛争の開始――ペレストロイカ初期から1988年前半まで
 2 紛争の継続と拡大――1988年後半から89年にかけて
第3節 ハイアスタン(アルメニア)情勢
 1 ペレストロイカ初期――1988年半ばまで
 2 民族運動の高まり――1988年後半から89年にかけて
第4節 アゼルバイジャン情勢
 1 ペレストロイカ初期――1988年末まで
 2 アゼルバイジャン人民戦線と主権宣言

第5章 サカルトヴェロ(グルジア/ジョージア)
第1節 背景――グルジアにおける民族問題
第2節 ペレストロイカ開始とグルジア
 1 ペレストロイカ初期のグルジア
 2 ペレストロイカ初期のアブハジアと南オセチア
第3節 トビリシ事件と民族運動の急進化
 1 トビリシ事件とその衝撃
 2 トビリシ事件後のアブハジアおよび南オセチア情勢

第6章 モルドヴァ(モルダヴィア)
第1節 背景
 1 モルドヴァ(モルダヴィア)史概観
 2 ペレストロイカ前夜のモルダヴィアにおける民族状況
第2節 ペレストロイカと民族運動の展開
 1 ペレストロイカ初期のモルダヴィア
 2 政治闘争激化の始まり――1989年夏以降
 3 沿ドネストル地域における運動の開始
 4 ガガウス人地域の動向

第7章 ウクライナとベラルーシ(白ロシア)
第1節 ウクライナ
 1 歴史的背景
 2 ペレストロイカ初期のウクライナ
 3 民族運動の展開と政策の変化――1989年のウクライナ
 4 クリミヤ
第2節 ベラルーシ(白ロシア)
 1 歴史的背景
 2 ペレストロイカの開始と白ロシア

第8章 特異な共和国としてのロシア共和国
第1節 ソ連の中のロシア共和国
 1 前提
 2 ペレストロイカと「ロシア問題」の浮上
第2節 ロシア内部の民族的自治地域
 1 全体状況
 2 ヴォルガ=ウラル地域――タタールおよびバシキールを中心に
 3 北カフカース(北コーカサス)


第2部 ペレストロイカの急進化と政治的分極化

第9章 政治的急進化とその矛盾
第1節 1990年夏まで
 1 全般的状況――ペレストロイカ急進化の第二段階と政治的分極化
 2 中央の対応――概観
 3 離脱手続き法
 4 権限区分法――同盟条約への先駆
 5 同盟条約案作成作業の開始――1990年春‐初夏
 6 共産党と連邦制
第2節 1990年秋‒91年初頭
 1 全般的状況――ペレストロイカの行き詰まりと転機
 2 経済改革問題と連邦制問題のリンク
 3 同盟条約案をめぐる攻防――1990年秋
 4 対決の絶頂――1990年末‐91年初頭
第3節 1991年春から8月まで
 1 全般的状況――和解の模索の開始およびその困難
 2 第二次同盟条約案,3月レファレンダムから「9プラス1」の合意へ
 3 同盟条約案再改定の試み――1991年5月‐7月半ば
 4 第四次同盟条約案作成と政治闘争――8月政変前夜

第10章 ロシア共和国
第1節 ロシア新政権の発足
 1 1990年3月選挙と新しいロシア政権の出発
 2 ロシア共和国共産党の創立
 3 新しい対抗関係の形成
第2節 《ロシア対ソ連》の対抗関係の本格化
 1 「法律の戦争」の全面化
 2 ロシア新憲法問題
 3 対決の絶頂――1991年1‐2月
第3節 転換と手詰まり――1991年3月以降 
 1 ロシア大統領制の導入
 2 大統領選挙以後のロシア政治

第11章 ロシア共和国内の民族的自治地域
第1節 総論
 1 新しいロシア共和国政権の誕生と民族的自治地域問題
 2 三層関係での政治――ソ連・ロシア共和国・内部自治地域
第2節 ヴォルガ=ウラル地域――タタルスタンおよびバシコルトスタンを中心に
 1 タタール自治共和国/タタルスタン共和国
 2 バシキール自治共和国/バシコルトスタン共和国
第3節 北カフカース(北コーカサス)
 1 カフカース(北コーカサス)全般
 2 チェチェンとイングーシ
 3 イングーシ=北オセチア紛争の本格化

第12章 バルト三国
第1節 独立宣言へ――1989年末‒90年前半
 1 複数政党制導入および共産党の分裂
 2 共和国最高会議選挙と独立宣言採択
第2節 中央との交渉および共和国内対立――独立宣言から1990年夏まで
 1 対峙および和解への模索
 2 各共和国内での政治情勢
第3節 大詰め――1990年秋から91年8月まで
 1 交渉の行き詰まりから緊張の絶頂へ――1990年秋‐91年1月
 2 独立路線の再確認とその後

第13章 サカルトヴェロ(グルジア/ジョージア)
第1節 グルジア全体の情勢
 1 独立論の拡大
 2 独立の主導権をめぐる政治闘争
 3 ガムサフルディア政権下のグルジア
第2節 グルジア内の自治地域
 1 グルジア政権の民族問題への対応
 2 南オセチア紛争――内戦の始まり
 3 アブハジア情勢

第14章 アゼルバイジャンとハイアスタン(アルメニア)
第1節 ナゴルノ=カラバフ紛争および両共和国間紛争
 1 1990年における紛争の展開
 2 1991年――対抗の一層の激化
第2節 ハイアスタン(アルメニア)情勢
 1 新しい共和国政権の出発
 2 独立への歩みの開始
第3節 アゼルバイジャン情勢
 1 1990年1月バクー事件とその後
 2 共和国選挙とムタリボフ体制

第15章 モルドヴァ(モルダヴィア)
第1節 緊張の漸次的増大――1990年前半
 1 共和国中央レヴェルの政治過程
 2 沿ドネストル情勢の深刻化
 3 ガガウス人地域の情勢
第2節 緊張のさらなる激化――1990年秋-91年前半
 1 地域間対立の昂進
 2 紛争の暴力化
 3 共和国中央(キシニョフ/キシナウ)における政治過程

第16章 ウクライナとベラルーシ(白ロシア)
第1節 ウクライナ
 1 1990年3月選挙から主権宣言採択へ
 2 独立論の台頭と共和国内政治対立の激化
 3 クリミヤ情勢
第2節 ベラルーシ(白ロシア)
 1 1990年3月選挙から主権宣言へ
 2 主権宣言採択後のベラルーシ(白ロシア)

第17章 中央アジア
第1節 概観
 1 中央アジア諸共和国の主権宣言
 2 民族間衝突・暴動の第二波
第2節 カザフスタンとキルギスタン(クルグズスタン)
 1 カザフスタンの新しい動き
 2 キルギスタン(クルグズスタン)――オーシ事件からアカーエフ政権成立へ
第3節 ウズベキスタン,トルクメニスタン,タジキスタン
 1 ウズベキスタン――権威主義的民族主義への傾斜
 2 トルクメニスタン――ペレストロイカ後期のニヤゾフ政権
 3 タジキスタン――内戦への背景


第3部 8月政変からソ連の解体へ

第18章 8月政変
第1節 クーデタから政変へ
 1 奇妙なクーデタとその失敗
 2 対抗クーデタ=革命
 3 連邦/同盟体制の暫定的再編
第2節 8月政変と各共和国
 1 クーデタとの対決――バルト三国,モルドヴァ,キルギスタン(クルグズスタン)
 2 南コーカサス(ザカフカース)の三共和国
 3 ウクライナおよびベラルーシ
 4 中央アジア
 5 ロシア内部の共和国

第19章 過渡期――1991年9‐11月
第1節 同盟/連邦再編の最後の試み
 1 8月政変後の交渉再開
 2 同盟条約構想の練り直し
 3 大詰め――10月末から11月にかけて
第2節 ロシア以外の共和国の動向
 1 モルドヴァおよびサカルトヴェロ(グルジア/ジョージア)
 2 ハイアスタン(アルメニア)およびアゼルバイジャン
 3 ウクライナおよびベラルーシ
 4 中央アジア
 5 ロシア内部の共和国

第20章 ソ連国家の最期
第1節 スラヴ三国によるソ連解体決定
 1 ミンスクおよびベロヴェジャの会談――前夜から直後まで
 2 三共和国における批准とその後
第2節 スラヴ三国以外の各共和国の反応
 1 中央アジア
 2 南コーカサス(ザカフカース)およびモルドヴァ
 3 内部少数派地域
第3節 ソ連解体の最終決定とゴルバチョフの退陣
 1 アシハバード(アシガバート)からアルマアタ(アルマトゥ)へ
 2 終幕


あとがき

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索引
塩川 伸明
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