『時がつくる建築』,『全国政治の始動』が第39回サントリー学芸賞を受賞

2017/11/10  受賞
加藤耕一『時がつくる建築』,前田亮介『全国政治の始動』が第39回サントリー学芸賞を受賞しました.
『時がつくる建築』は芸術・文学部門,『全国政治の始動』は思想・歴史部門での受賞です.

『時がつくる建築』
【選評】
西洋建築史を既存建物の「再利用」という視点から再検討した本書の貢献は,このリノベーションが実は古代以来もっとも歴史の長い第1の道であることを明示し,それこそが成長時代から縮小時代に移行しつつある現在の建築的課題に最も適した解決策であると主張した点にある〔…〕広い歴史的な視野から建築の現在について考察すること.文化論,文明論への展開も予見させる,新世代建築史家の今後の活躍を期待するばかりである.
評者:三浦 篤氏(東京大学教授)

【受賞のことば】
本書は,現代の社会状況を反映した西洋建築史学であり,その根底にはこれまで取り組んできたゴシック研究があります.建築を専門とする人にも,そうでない人にも読んで欲しいと願いながら執筆しました.この受賞はその願いを後押ししてくださるものと思います.心より感謝申し上げます.

『全国政治の始動』
【選評】
藩閥政治が再編されるなかで,政党もまた変容していく.その具体的展開は,開拓地である北海道,地域間統合の新たな駆動力となった治水,さらに地域産業の振興を支えた日本銀行と政党の関わりにおいてこそ,鮮やかに浮かび上がる.非藩閥出身者が多く,初期の明治国家の地方政策を支えた地方官の果たした役割を含め,本書の分析は,「そこに鍵があったか」という発見に満ちている.
 現在日本においても,あらためて全国政治と地方政治の関わりに注目が集まっている.地方政治が先行し,それに遅れて全国政治が生まれ,両者のリンケージが繊細に整備されていったという本書のメッセージは,現代的な示唆を与えてくれるはずだ.
評者:宇野 重規氏(東京大学教授)

【受賞のことば】
「国民国家」という視角を本書が強調したのも,国民/社会統合をめぐる,より悪くない権力の創出という世界史的な課題に,向き合う必要を感じたためです.同一の政治共同体をさしあたり構成する,利害や価値を異にする他者を包摂した「富の配分」は,どのような条件で可能になるのか.ポスト・ナショナリズムと背反しないナショナルな政治的単位のあり方について,19世紀日本のナショナル・ポリティクス(全国政治)をとりあげた本書の分析に,現代的な示唆を提供できるところがあれば,大変幸いです.今後は,20世紀の帝国建設と国際金融の関係について研究を進めていく所存です.
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