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現代中国の構造変動[全8巻]
1999年10月1日,中華人民共和国は建国50周年を迎え,天安門広場では厳粛にまた華々しく記念式典が行われた.人の一生でいえば,成熟し落ち着いた中年,孔子によれば,「耳順がう」歳である.中国ははたして落ち着くのだろうか.
この50年は,革命と政治が主導した紆余曲折の毛沢東時代30年,経済と豊かさがリードした¶(ト)小平時代20年に大きく分かれる.旧現代中国と新現代中国と言っていいかもしれない.本シリーズは,その新現代中国に焦点を合わせ,その間のめざましい変化を,政治,経済,社会,環境,歴史,国家統合,アジア世界との関係から分析し,できるだけ実像に近い現代中国像を浮かび上がらせようとしたものである.
改革開放政策の20年間で中国はめざましく変わった.毛沢東時代には中国人すべてが,「政治人」に見えたが,今ではほとんどが「経済人」である.ヒトもモノも情報も国境を越えて激しく行き来している.中国そのもののように見えた国有企業も,職場がゆりかごから墓場まで面倒をみる「単位社会」も,いまでは色あせ,昔日の面影はない.天安門事件の悲劇が忘れ去られたかのように,(ト)小平の「南巡談話」以後,市場化とグローバリゼーションがすすんでいる.人びとの生活が20年前とは比べようもなく豊かになっているのは誰もがはっきり見てとれる.
経済成長につれ,国際社会では「中国は21世紀の超大国」,「中国は脅威だ」という議論も出ている.「4倍増」目標を5年もはやく繰り上げ達成した中国は,いまや押しも押されもしないアジアの大国である.2010年までの目標(10年でGDPを2倍にする)も実現するかも知れない.突然現れた「新興大国中国」とどうつきあっていったらよいのか,国際社会が困惑したからこそ,「超大国」論や「脅威論」が浮上してくるのだろう.
では,本当に中国はかわったのだろうか.20年間で政治も経済も社会も構造的な変化が起こっているのだろうか.実際のところ,激動のさなかにある中国でいったい何がどうなっているのかをトータルに掴むのはむずかしいし,ましてや先は不透明なことこの上ない.経済成長はこのまま続くのだろうか,民主化の展望は出てきたのだろうか,経済の市場化は順調に進むのだろうか,中国社会は普通の市民社会に向かうのだろうか,成長一点張りで人びとの生活環境ははつぃてよくなっているのだろうか,環境汚染や資源が成長を制約しないだろうか,20世紀というスパンでみると何が変わって何が変わらないのだろうか,台湾の自立の動きや少数民族のエスノ・ナショナリズムは国家統合にどのような変容を迫るのだろうか,中国はいずれ外部世界にとって「脅威」になるのだろうか,などなど,疑問は数限りない.
本シリーズは,70人近い中国研究者が「中国に構造変動は起こっているのか,だとすればどのような構造変動か」を中心テーマに集まり,3年間共同研究と議論を重ねてきた成果である(1996−99年度の文部省科学研究費補助金の特定領域研究).シリーズ全8巻の執筆者はいずれも,角度や関心テーマはちがっても,以上のような問いに何とか答えようと試みている.対象が激動している時こそ研究者は落ち着いた分析をしなければならない,というのは地域研究の鉄則である.
だが意欲は盛んでも,これらの問いにすべて答え,「中国の構造変動」すべてを分析することはもちろんこの上なくむずかしい.分析が不十分で未熟なところも多々あるにちがいない.読者の忌憚のないご批判をお願いするとともに,本シリーズが中国研究に新しい視座や視点をすこしでも提供することができれば,執筆者全員にとって大きな喜びである.
2000年1月
編者を代表して 毛利和子