ゲーデルと20世紀の 論理学 ロジック [全4巻]

第1巻 ゲーデルの20世紀  [執筆者]田中一之/田中尚夫/鈴木登志雄/飯田隆/竹内外史/八杉満利子

19世紀中葉まで時代の動きに取り残され,中世スコラ学の形骸と化していた論理学は,ブール,フレーゲら数学者たちの突然の参入によって,見事な復興をとげた.そして20世紀.ゲーデルを筆頭に,個性豊かで才気煥発な数学者や哲学者たちがつぎつぎと壇上に現れた.彼らはしのぎを削って優れた技法を開発し,ドグマをぶつけ合って思考を深化させ,高度な学問領域としての「ロジック」を形成していった.本巻では,日本を代表するロジシャンたちが,自らの体験を踏まえ,20世紀のロジックの生きた姿を語る. 

第2巻 完全性定理とモデル理論  [執筆者]田中一之/坪井明人/野本和幸

ゲーデルが最初に証明した重要定理は,1階述語論理の完全性である.この定理は,シンタックス(形式)とセマンティクス(意味)を峻別した上で,両者の本来的な繋がりを再構築するものと今日的には解釈される.だが,ゲーデルがその証明を与えた時点ではセマンティクスの概念がまだ明確に定められておらず,この定理を今日の形で述べるためには,モデル理論(意味論)の整備が必要であった.モデル理論は,タルスキによる草創期から,数学的構造に関する研究と言語の哲学的分析の2つの面をもっている.本巻では,現代的な視点から1階述語論理の基本概念を平易に説明したあと,モデル理論(意味論)のこの2つの面をそれぞれのエキスパートがていねいに解説する.

第3巻 不完全性定理と算術の体系  [執筆者]田中一之/鹿島亮/山崎武/白旗優

ゲーデルは,第一不完全性定理によって,数学全体を基礎付けるような完全な公理系が存在しないことを示した.残されたのは,不完全な公理系でどこまで数学が展開できるか,あるいは個々の数学理論や命題に本当に必要な公理は何か,という問題であった.1977年,パリスとハーリントンは,1階算術では証明できない真なる有限組合せ論の命題を発見した.同じ頃,フリードマンとシンプソンは,2階算術において,数学の各定理の証明に必要な公理を系統的に調査する「逆数学プログラム」を立ち上げた.また,ゲーデル自身は,1階算術の無矛盾を,高階算術の中で証明するという論法(ダイアレクティカ解釈)を発見した.本巻では,2つの不完全性定理に現代的な証明を与えるとともに,それ以降に算術の形式体系について得られた現代ロジックの重要成果を解説する.

第4巻 集合論とプラトニズム  [執筆者]田中一之/渕野昌/松原洋/土屋俊/戸田山和久

ゲーデルにとって,集合論の対象とする宇宙は唯一つの絶対存在であり,集合論の各命題は,その宇宙において,真か偽かの確定した値をとる.ゲーデルは,連続体仮説を成り立たせる人工的宇宙を構成してみせる一方で,本物の宇宙では連続体仮説は成り立っていないと予想した.そして,それを示す方法論として,つぎつぎと巨大基数公理を強化して集合論の公理系を拡大していく所謂「ゲーデルのプログラム」を提唱した.この最終巻では,ゲーデルの数理哲学を解説するとともに,それを底流とした現代集合論の研究動向を紹介する.



刊行にあたって

 今年2006年は,ゲーデルの生誕100年にあたる.19世紀半ばのブールの仕事を近代論理学の出発点とみなすと,現在まで約150年の歴史のちょうど中間辺りで,20代半ばの青年ゲーデルが不完全性定理を証明し,論理学(ロジック)に革命的転回をもたらしたことになる.
 『TIME』誌が発表した20世紀の偉大な科学者・思想家20人(組)に,アインシュタイン,フロイト,ライト兄弟らと並んで,ゲーデル,そして論理学に関係の深いテューリングとウィトゲンシュタインが選ばれた. 近隣分野から3人も名を連ねたことは,20世紀の科学や思想の発展に論理学革命がいかに重要な役割を担い,またそれがいかに高く評価されているかを示している.
 現代論理学の発展に寄与した人たちの多くは数学者である.ゲーデルは言わずもがな,ウィトゲンシュタインも流体力学という数学に近い分野から出発している.したがって,現代論理学の議論は否応なく数学的なのだが,数学の一分野に収まっているわけではない.ゲーデル自身,後半生は主に哲学を研究し,クワインやクリプキのように哲学サイドに立ちながら数理論理学に大きく貢献している研究者も少なくない.20世紀の論理学の特徴はまさにこのような文理融合にあるのだが,このダイナミズムが文系・理系を分けたがる日本固有の文化のもとで敬遠や誤解を生む要因になっているとすれば大変残念である.また,この分野を「数学基礎論」と呼ぶ慣習が,我が国のロジックの健全な発展を妨げていると指摘する声があることも付言しておく.
 本シリーズは,ゲーデルの生誕100年を記念し,彼の仕事を基点に20世紀の論理学の歩みを振り返り,公平な歴史認識のもとで,現代論理学の核となる概念や事実を立体的かつビビッド(vivid)に解き明かそうという試みで企画された.そのため,数学と哲学の両面から解説を与えるという編集方針をまず打ち立てた.幸いなことに両陣営からご理解を得て,各分野の第一人者に執筆をお引き受けいただいた.前代未聞ともいえるこの試みが成功しているかいないかは読者諸賢の判断に委ねるしかないが,本シリーズの刊行を機縁に,論理学周辺のさまざまな分野の間に新しい対話が生まれることになれば,編者としてこれにまさる喜びはない.
 すでに論理学について一通りの知識をお持ちの方にも,初めてふれる方にも興味をもって読んでいただけるように記述を工夫しているが,なかでも次世代を担う若い人たちには,全巻を読みこなし,広い視野と正しい認識をもつ新時代のロジシャンになっていただきたい.そしていつか「21世紀のロジック」について,立派なシリーズが刊行されることを期待したい.

編者 田中一之

各巻詳細

第1巻 ゲーデルの20世紀

 序 ブールからゲーデルへ――20世紀ロジックの形成   田中一之(東北大学)
 I ゲーデルと日本――明治以降のロジック研究史   田中尚夫(法政大学名誉教授)・鈴木登志雄(首都大学東京)
 II ゲーデルと哲学――不完全性・分析性・機械論   飯田隆(慶應義塾大学)
 III ロジシャンの随想
  1 プリンストンにて――私の基本予想とゲーデル   竹内外史(イリノイ大学名誉教授)
  2 20世紀後半の記憶――数学のなかの構成と計算    八杉満利子(京都産業大学)

第2巻 完全性定理とモデル理論

 序  ゲーデルの完全性定理とその背景   田中一之(東北大学)
 I 述語論理入門   田中一之(東北大学)
 II モデル理論とコンパクト性   坪井明人(筑波大学)
 III 論理的意味論の源流、モデル論の誕生、そしてその展開――論理と言語の間で   野本和幸(創価大学)

第3巻 不完全性定理と算術の体系

 序  ゲーデルの不完全性定理とその背景   田中一之(東北大学)
 I 第一不完全性定理と第二不完全性定理   鹿島亮(東京工業大学)
 II 逆数学と2階算術   山崎武(東北大学)
 III ダイアレクティカ解釈   白旗優(慶應義塾大学)

第4巻 集合論とプラトニズム

 序 ゲーデルの集合論とその背景   田中一之(東北大学)
 I 構成的集合と公理的集合論入門   渕野昌(中部大学)
 II 集合論の発展――ゲーデルのプログラムの視点から   松原洋(名古屋大学)
 III ゲーデルのプラトニズムと数学的直観   戸田山和久(名古屋大学)