サステイナビリティ学[全5巻]

1 サステイナビリティ学の創生

 サステイナビリティ(持続可能性)にかかわる問題は,複雑で他分野にまたがり,従来の細分化された学術体系では解決がむずかしい.サステイナビリティ学は,この認識にもとづき,個別学術を統合化し,複雑な問題を構造的にとらえることを目的とした,新たな体系である.
 本巻では,サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)の創設にいたる経緯にもふれつつ,問題を俯瞰的に理解するための「知識の構造化」や新たな学術としてのフレームワークの提示,持続可能な国土や世界を形成するための長期シナリオに至るまで,サステイナビリティ学の概念と方法について述べる.

2 気候変動と低炭素社会

 気候変動対策は,21世紀国際政治の重要な課題となっているが,なかでも気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の果たした役割は大きい.
 本巻では,サステイナビリティ学における「知識の構造化」の代表例ともいえるIPCCの成果や,温暖化政策に向けた国際的合意形成プロセスなどに注目しながら,人為的気候変動を緩和し,低炭素社会や低炭素都市を構築していくための,経済的手法,技術的手法をふまえたビジョン提言と,その実現手法について論じる.

3 資源利用と循環型社会

 大量生産・大量消費・大量廃棄により資源を浪費する社会は,限界を迎えている.資源の浪費を抑制しつつ経済の成長を維持するためには,循環型社会を形成する必要がある.
 本巻で扱う循環型社会は,ごみを減らすといった方策にとどまらない.ものの製造工程そのものを見直し,3R(リデュース,リユース,リサイクル)を進めやすいような社会システムの設計をはじめ,動脈産業と静脈産業を循環させる社会システム構築をめざす.さらに,日本が世界をリードする大きな実績である世界3Rイニシアティブについても解説する.

4 生態系と自然共生社会

 西暦2000年を期に進められた国連のミレニアム生態系評価は,20世紀後半の生物多様性の減少が生物史上最大であることを明らかにした.生物多様性の減少に歯止めをかけ,生態系のさまざまな恵み(生態系サービス)を人類が今後とも享受できるようにするには,生物多様性と生態系の保全を前提とした新たな社会(自然共生社会)づくりが必要である.
 本巻では,生物多様性・生態系の評価・モニタリングから生物多様性・生態系保全のための長期戦略構築に至るまでの道筋を明らかにするとともに,自然の保全と再生,農林業振興,都市緑化など,生態系保全の観点からみた国土利用や都市生態系のあるべき姿について検討する.

5 持続可能なアジアの展望

 地球持続性の観点からアジアが注目されている.それは,この地域の膨大な人口と産業活動がもたらす環境負荷がきわめて大きく,また,中国やインドなど今後急激な経済成長をとげる新興国が存在するため,アジアにおける持続可能性の実現は,人類社会全体の持続可能性に決定的な役割を演じると考えられるからである.
 この巻では,日本が今後その一員としてリーダーシップをとっていくべきアジアの持続可能性への方策を示す.従来のODAなどのあり方の見直しや持続可能性実現のための科学技術支援,サステイナビリティ教育での連携についてもふれる.


刊行にあたって

 地球環境と人類社会の持続可能性への展望を示すことは,それが危機的状況を迎えている21世紀において,学術界に課せられたもっとも大きな課題である.この課題に果敢に挑戦しようとするのが,サステイナビリティ学である.いま世界の学術界では,先進国,開発途上国を問わず,このサステイナビリティ学の創生に向けた取組が急速に進展しつつある.私たちも,これまで15年以上におよぶ,地球持続性を確保するための取組の実績をふまえて,東京大学を中心に,サステイナビリティ学を創生するための世界的な拠点づくりを進めてきた.そして5つの参加大学,7つの協力機関からなる「サステイナビリティ学連携研究機構」(IR3S)を結成し,サステイナビリティ学に関する研究,教育,社会連携を推進してきた.このIR3Sは,これまでに例をみないネットワーク型の研究拠点で,膨大なサステイナビリティ学の領域をネットワーク全体でカバーしつつ,短期間でサステイナビリティ学の体系化をめざす目的で結成されたものである.
 複雑な問題を俯瞰的にとらえ,長期にわたる問題解決へのビジョンを提示するために欠かせないのが,知識と行動の構造化である.第1巻では,そうした構造化の具体的手法も含めたサステイナビリティ学の概念と方法が述べられる.また私たちは,21世紀に構築すべき持続型社会を低炭素社会,循環型社会,自然共生社会の3社会像の融合として描くべきとの考え方から,それぞれの現状とめざすべき社会像について第2巻,第3巻,第4巻で検討を行っている.さらに,成長するアジアの持続可能性が地球持続性の大きな鍵を握っているという観点から,第5巻ではアジアの課題と持続可能なアジアへの展望について語っている.
 本シリーズは,サステイナビリティ学を体系的に論じた初めての叢書であり,この分野に将来取り組もうとする学生のみならず,すでに持続可能性の問題に取り組んでいる研究,行政,企業,NGOなどの関係者にも役立つような内容となっている.編者一同,本シリーズが,地球持続性を脅かしている気候変動,資源枯渇,生態系劣化などの問題を克服し,持続型社会構築に向けた新しいパラダイムの創造に貢献することを心より願っている.いまだ誕生したばかりのこの新しい学術の発展に向け,本シリーズを出発点にさらに議論を進めていきたい.

 小宮山 浩・武内和彦・住 明正・花木啓祐・三村信男


各巻詳細

1 サステイナビリティ学の創生

序章 サステイナビリティ学とはなにか   小宮山 宏・武内和彦
第1章 サステイナビリティ学の創生――持続可能な社会をめざす   武内和彦・小宮山 宏
第2章 サステイナビリティ学の概念――フレームワークをつくる   吉川弘之
第3章 サステイナビリティ学と構造化――知識システムを構築する   梶川裕矢・小宮山 宏
第4章 サステイナビリティ学とイノベーション――科学技術を駆使する   鎗目 雅
第5章 サステイナビリティ学の展望――長期シナリオを考える   増井利彦・武内和彦・花木啓祐
第6章 サステイナビリティ学のネットワーク――グローバルに協働する   武内和彦・小宮山 宏
終章 サステイナビリティ学の未来に向けて   武内和彦・小宮山 宏

2 気候変動と低炭素社会

序章 20世紀はどんな時代であったか,21世紀はどんな時代になるか?   住 明正
第1章 気候変動とIPCC――国際的観点で評価する   住 明正・三村信男
第2章 気候変動と気候モデル――過去から未来を予測する   住 明正
第3章 気候変動問題をめぐる政治・経済・社会――持続可能な低炭素社会へ   植田和弘
第4章 気候変動への適応――対応戦略を提案する   三村信男
第5章 気候変動と低炭素社会――日本のビジョンを示す   藤野純一
第6章 気候変動への取組――低炭素都市をつくる   小澤一郎
終章 明日に向かって   住 明正

3 資源利用と循環型社会

序章 循環型社会からみたサステイナビリティ   花木啓祐
第1章 循環型社会の考え方――持続可能な消費を促進する   花木啓祐
第2章 循環型社会のデザイン――新しいビジョンを提示する   小宮山 宏
第3章 資源循環型社会の経済学――資源をマーケティングする   細田衛士
第4章 循環型社会と3Rイニシアティブ――国際社会が挑戦する   岡澤和好
第5章 循環型社会の指標――地域から評価する   森口祐一・武内和彦
第6章 都市・農村間の資源循環――バイオマス循環を考える   花木啓祐・松田浩敬
終章 循環型社会の形成に向けて   花木啓祐

4 生態系と自然共生社会

序章 自然共生社会とはなにか――生態系の視点から   武内和彦
第1章 生態学からみた持続可能性――ヒトと生態系の持続戦略   鷲谷いづみ
第2章 ミレニアム生態系評価――生態系と人間の福利を考える   A. H. ザクリ・西麻衣子
第3章 里地里山の生態系――生態系サービスを評価する   大黒俊哉・武内和彦
第4章 国土の生態系保全――長期戦略を提案する   小野寺 浩
第5章 農林水産業と持続可能性――日本の持続型国土を展望する   武内和彦・松田浩敬
第6章 都市の生態系――再生と緑化を推進する   武内和彦
終章 地球生態系保全のための長期戦略に向けて   武内和彦

5 持続可能なアジアの展望

序章 アジアのサステイナビリティと課題   福士謙介・三村信男
第1章 成長するアジアのエネルギー・環境――持続的発展は可能か?   山地憲治・小宮山涼一
第2章 アジアの気候および生態系の変化――適応対策の設計   S. ヘラート・三村信男
第3章 アジアの自然環境と持続的生物生産――21世紀型持続的農業を考える   大崎 満
第4章 アジアの都市・農村――循環型社会を創造する   原 祐二・武内和彦
第5章 アジアの水資源――環境を管理する   大村達夫・福士謙介・渡部 徹
第6章 アジア人の健康――豊かに生きる   関山牧子・渡辺知保
終章 持続可能なアジアに向けて   三村信男