「フィールドの科学」

2006年3月24日 - 17:32
光明義文

春が訪れると可憐な花を咲かせるサクラソウは,数十年前までは里山にごく普通にみられる身近な野生植物だったそうです.それがいまでは絶滅危惧種として,保全生物学のひとつのシンボルになりました.『サクラソウの分子遺伝生態学:エコゲノム・プロジェクトの黎明

絶滅の危機にある野生生物の保全は,「環境の世紀」といわれる現代において,きわめて重要なテーマのひとつとなっています.それにともない保全生物学を志す若い人たちがどんどん増えています.しかし,野生生物を保全するためには,まず対象とする生物の生きざまをよく知らなくてはなりません.そのためには生態学をはじめとするフィールドサイエンスの知識をしっかりと身につけておく必要があります.

小会には,さまざまなフィールドサイエンスをテーマにした書籍があります.そのなかから,今回は植物生態学の分野のものをいくつか紹介させていただきます.フィールドで生きものたちの生活を読み解いていく研究の魅力にふれていただければ幸いです.このたび小会では,生物学関連書籍の目録を作成いたしました.ご興味をお持ちの皆さんにはお送りいたしますのでご請求ください(通信欄に「生物学関連目録」と記入してください). (続きを読む…)

「安全安心のための社会技術」関連書

2006年3月2日 - 11:39
東京大学出版会作成

《小会刊行関連本》
安全で安心に暮らすために必要な技術とは?
安全安心のための社会技術
堀井秀之編 ●ISBN4-13-061158-5 A5判・384頁 3360円
より複雑となる社会問題を解決するための方法とは? 分野を超えた新しい知「社会技術」について,その理念や方法論を原子力・食品・交通・医療などの具体例をまじえて丁寧に解説.

環境,食糧,医療,災害,など,境界領域の問題にどう対処するか
科学技術社会論の技法
藤垣裕子編 ●ISBN4-13-003204-6 A5判・288頁 2940円
BSE,薬害エイズ,Winny事件――さまざまな分野で科学/技術と社会との接点にある問題の調停が求められている現在,境界領域の問題を扱うSTSの役割は大きい.具体的事例から方法論までをまとめた,初のテキスト.

能動的な「元気の出る技術倫理」へ
実践のための技術倫理
野城・札野・板倉・大場 ●ISBN4-13-062811-9 A5判・200頁 2520円
欠陥・事故隠し,データ改竄といった企業の技術的不祥事の背景にあるものはなにか.それを防ぐには何が求められているのか.エンジニア必携,「技術倫理」の実践力を養うテキスト. (続きを読む…)

《湾岸戦争》15年目の中東イスラム

2006年1月27日 - 17:06

1991年1月17日,多国籍軍がイラクを空爆してはじまった「湾岸戦争」から15年.

2001年9月11日の同時多発テロ,2004年3月マドリード・2005年7月ロンドンのテロを経て,2003年からはじまった「イラク戦争」の経過も含めて,中東イスラムの状況は落ち着くことはありません.あの戦争の背景にあるものは何だったのか.考える材料となる書籍をご紹介いたします(営業局 小山).


イスラーム世界は存在するのか
イスラーム世界の創造 東洋叢書13
羽田正 ●ISBN4-13-013043-9  四六判・336頁  3150円
イスラーム世界とは何か.近代に創られ現代へ至る歴史的な成立と受容をたどり,さまざまにとらえられるこの概念が招くあいまいな理解を克服.
ヨーロッパ中心史観を超えて
イスラム世界論 トリックスターとしての神 東洋叢書10
加藤博 ●ISBN4-13-013040-4  四六判・256頁  2730円
多様で変幻自在なイスラム世界をどのように理解するか.ヨーロッパ中心史観を超え,独自のイスラム世界観を提起する.     

中東現代史のダイナミズム
燃えあがる海 湾岸現代史 中東イスラム世界5
高橋和夫 ●ISBN4-13-025025-6  四六判・312頁  2625円
原油という名の黒い血を生み出すペルシア湾岸.クルド問題,イラン・イラク戦争,湾岸戦争など,70年代以降の経験を国際政治分析の射程に収める.
(続きを読む…)

《阪神・淡路大震災11年》安全・安心はどこへ?

2006年1月23日 - 15:48

この1月17日,阪神・淡路大震災から11年目を迎えました.復興はすすんように思われてますが,細かな日常生活や心の回復には,まだまだ時間がかかる様子です.私たちはこの震災から多くのことを学びとったはずですが,「耐震強度偽装事件」の発覚など安全に不安を投げかける問題が多く発覚し,社会を支える技術者たちの倫理が問われています.

震災の教訓は活かされなかったのか.
安全・安心はどこへ行くのだろうか.

防災に役立つ入門書,そして安全の基盤となる技術倫理を確立するための指針となる書籍をご紹介いたします(営業局 小山).


阪神淡路大震災を機に普及した「活断層」の実体とは?
活断層とは何か
池田安隆・島崎邦彦・山崎晴雄 ●ISBN4-13-063309-0  四六判 ・240頁 1890円
「活断層」.その性質と地震との関係,危険性について,具体例を盛り込みながら,正確にわかりやすく解説.「活断層」についての入門書.●購入●

気象災害から地震・火山災害まで,自然災害全体を扱った定番書
自然災害と防災の科学
水谷武司 ●ISBN4-13-062708-2 A5判・224頁 3360円
個々の自然災害について論じた本は数多いが,災害全体を大きく見渡して自然災害防災を総合的に解説している本は他にありません.わかりやすい図版多数.●購入●
 
震発生直後に震源と地震動分布をリアルタイムに把握
リアルタイム地震学
菊地正幸 ●ISBN4-13-060743-X  A5判・232頁  3990円
地震発生直後に震源と地震動分布をすばやく把握し,早期情報を災害軽減に役立てようとする「リアルタイム地震学」.震源と地震波伝播の基礎から,情報システムの実際,地震予知計画との関係まで,バランスよく解説.●購入● (続きを読む…)

《日本美術からの発見…》

2005年12月5日 - 12:51

◆縄文からマンガアニメまで
日本美術の歴史
辻 惟雄 ○4-13-082086-9  A5判・472頁 税込2940円
『奇想の系譜』から35年.岩佐又兵衛,狩野山雪,伊藤若冲,曾我蕭白,長澤芦雪,歌川国芳の「発見」を通して,日本美術の独創的なおもしろさ,新しさを論じた著者が,いま,縄文からマンガ・アニメまで,360枚の図版とともに日本美術の流れと特質を大胆に俯瞰する.書下し,オールカラー.装丁・横尾忠則.
【担当編集者から】書下し単独著です.縄文から現代まで通して,辻先生が一人で一冊書いちゃいました.『カラー版日本美術史』もいい概説書ですが,本書は,読んで愉しい本となりました.展覧会に行く前にサッと読んで,本物の絵をみた後じっくり読むと,日本美術の面白さがまた格別なものに感じられるでしょう.著者の強い希望で,横尾忠則さんに装画・装丁をお願いしました.「UP」9月号の辻先生と山下裕二さんの対談もぜひご覧ください.

◆日本美術史研究の新たな地平を拓く,初のシリーズ
講座 日本美術史[全6巻]
1 物から言葉へ  佐藤康宏編
○4-13-084081-9  A5判・388頁 税込4410円
2 形態の伝承  板倉聖哲編
○4-13-084082-7  A5判・360頁 税込4410円
3 図像の意味  佐藤康宏編
○4-13-084083-5  A5判・376頁 税込4410円
4 造形の場  長岡龍作編
○4-13-084084-3  A5判・376頁 税込4410円
5 〈かざり〉と〈つくり〉の領分  玉蟲敏子編
○4-13-084085-1  A5判・360頁 税込4410円
6 美術を支えるもの  木下直之編
○084086-X  A5判・376頁 税込4410円

◆美術史の枠の中で語られることのなかった作品が,誰にどのように発見されたのか
日本美術の発見者たち
矢島新・山下裕二・辻惟雄 ○4-13-083035-X A5判 ・226頁 税込2625円
美術史の枠の中で語られることのなかった作品が,誰にどのように発見されたのか.柳宗悦による民芸の発見,岡本太郎による縄文の美の発見,辻惟雄による奇想の画家の再評価,赤瀬川原平による超芸術トマソンの発見.発見者と発見されたものを,図版を示しながら分かりやすく解説する.
【担当編集者から】渋谷の松濤美術館「眼の革命 発見された日本美術」展(2001年秋)から生まれた本です.今や日常語となった「民芸」(民衆芸術の略)も,実は柳宗悦という人の「発見」したものであり,あのダイナミックな縄文土器も,岡本太郎が「これはすごい」と言うまでは考古学研究の対象でしかありませんでした.また,若冲や蕭白のド肝を抜く色づかいや大胆な構図も,辻惟雄著『奇想の系譜』でとりあげられて初めて,多くの人に知られるようになったのです.….
(続きを読む…)

大変革されたアラビア数学史がわかる本

2005年11月23日 - 10:38

自然科学雑誌書評から
アラビア数学の展開』コレクション数学史4
ロシュディー・ラーシェド著/三村太郎訳
A5判 362頁 税込6090円 ISBN 4-13-061354-5

★「数学セミナー」2005年12月号 (評者:横川光司氏)
大変革されたアラビア数学史がわかる本
「……これまでアラビア数学は,ギリシャ数学を西洋へ伝える媒介という程度にしかみなされないことも多かったようであるが,本書であきらかにされているように,これまでルネサンス期以降の西洋数学の成果として捉えられてきたことのいくつかがすでにアラビア数学の一部であったのだ.アレクサンドリアの時代からルネサンス期まで,数学にはほとんど何も起こらなかったかのように書かれることも多かったが,そうではなく,実際には実にさまざまな発見で満たされていたのである.
 本書はいくつかの数学史の雑誌論文をまとめたものであり,数学史の非専門家には決して読みやすいものたは言えない.しかし,非専門家にとっても興味深い点がいくつかあるので,初期の代数学の歴史に興味のある方には,専門家でなくても一読の価値はあるだろう.……」

《感情と記憶》――歴史認識への問い

2005年7月27日 - 17:26
小山美和

敗戦60年目の夏だ.「この60年」をどう振り返るかは各人・各メディアによって様々だが,「振り返るというには」あまりに生々しく,戦争と戦後の問題は今を生きる私たちにつきつけられている.靖国問題,中国の反日デモ,憲法「改正」,「拉致」問題など,……各様に語られるそれらのテーマは私たちのなかの歴史認識にかかわる問いである.政治・政策的問題として語られてきた靖国というテーマを「感情」と「歴史認識」という道筋で読みといた高橋哲哉先生『靖国問題』(ちくま新書)がベストセラーになっているのも時代の象徴だろう.

歴史認識問題を中国とのかかわりで正面からとらえたのが,溝口雄三先生『中国の衝撃』だ.溝口先生は『方法としての中国』で独自の近代中国像をうちだした人.中国関係の報道では,中国側の反日感情に対して敏感に報道される傾向が強く,その様子を見た日本人の多くが嫌悪感をあらわにし,ますます民衆を刺激するという悪循環に陥る.そこに一石を投じるのが本書だ.

歴史認識の齟齬について〈感情>を重要視し,問題にすべき相手は「感情を形成してきた歴史の磁場だろう」と提言,南京については「歴史記録としてあるだけでなく,歴史記憶として現在に再生産されつづける」と〈記憶>の重要性も指摘する.日中間の齟齬についても「断層による齟齬に気づきはじめたこのことを,新世紀の日中関係の第一歩の踏み出し,ということにしたい」と悲観的ではない. (続きを読む…)

雪球地球?《地球の歴史の歩き方》

2005年7月21日 - 12:21
小松美加

東京では梅雨も明け,暑い夏がやってきました.子供たちは待ちに待った夏休みですね.大人も日々忙しい日常から少し離れて,46億年という長い地球の歴史に思いをはせてみませんか? 猛暑のこの季節に,ほんの少し涼しくなっていただけるような(?)話題をご紹介します.

現在の地球は温暖で湿潤な生命の生存に適した環境となっていますが,最近になって,はるか昔の原生代という時代には,地球表面がまるごとすっかり凍りついた「スノーボールアース(雪球地球)」だったということがわかってきました.いまでも地球の極域や高い山岳地方には氷河や氷床がありますが,その頃は全地球がすっかり氷で覆われた“全球凍結状態”だったらしいのです.

すっかり凍りついた氷の下で,生命はいったいどうやって生き長らえていったのでしょう?そもそもなぜ全地球が凍りつくような事態に陥ったのか,いったいその原因は何だったのでしょう?

このような地球の歴史の謎を解明するために,地球を大気や海洋,固体内部地球,生命圏などのサブシステムからなる巨大な一つのシステムとしてとらえ,加えて宇宙空間まで視野に入れた「地球惑星システム科学」という研究分野が注目されています.今回ご紹介する『進化する地球惑星システム』は,東京大学に新設された「地球惑星システム学講座」が総力を挙げ,地球の歴史を読み解く面白さを伝える本です.地球惑星科学におけるあらゆる時間スケール(太陽系誕生や地球進化から現代の地球環境問題まで),空間スケール(地球内部コアやマントルから地球表層,大気,宇宙空間まで)をシステム科学的立場から扱っており,たくさんの興味深い地球の歴史のトピックスがわかりやすく語られています. (続きを読む…)

従来の「台湾像」を検証する―「記憶」をキーワードに

2005年7月15日 - 13:58

記憶する台湾』 帝国との相剋 呉密察・黄英哲・垂水千恵編
★図書新聞7月23日号書評より(評者:洪 郁如氏)

「親日の台湾、反日の韓国」という安易なステレオタイプからの脱却への一助

「……近年では,同じく戦前日本による植民地支配を受けた韓国と対比し,「〈親日〉的な台湾」と「〈反日〉的な韓国」という台湾像が,坊間の雑誌やテレビ番組を通じて氾濫している.とくに「〈親日〉的な台湾」というイメージは,過去の日本国帝国による殖民と侵略を「悪」として糾弾する立場の日本人たちを困惑させる.……

「記憶する台湾」というタイトルが示すように,本書の意図は台湾の歴史そのものを直接に扱うことにはない.むしろ,台湾がどのように語られたのか,日本統治時代の台湾がどのように認識されていたのかが焦点となっている.……

台湾が背負っていた植民地としての過去が,戦後の国民党時代から今日に至るまで人々に「どのように記憶されていたのか」という問題である.本書の中で台湾人研究者達が明らかにした苦渋の「戦後六〇年」は,日本人と無関係ではないにもかかわらず,これまでほとんど認識されてこなかった.……「望むと望まざるとにかかわらず,戦後台湾はさまざまな局面における植民地時代の記憶を継承し,そしてその継承してしまった記憶と対峙するところから自らの歩みを進めてきた」 (続きを読む…)

《格差と不平等》――短絡的議論に陥らないために

2005年7月8日 - 13:35
黒田拓也

「格差」や「不平等」という,あまり気分のよくない言葉が書名に多く使われるようになって,もう何年たつでしょうか.京都大学の橘木俊詔先生が『日本の経済格差』(岩波新書)を著したのは1998年,東京大学の佐藤俊樹先生が『不平等社会日本』(中公新書)を刊行されたのが2000年.ベストセラーにもなり,さまざまな論争を巻き起こしたこれらの代表的な書物の刊行後も現在に至るまで続々と類書の出版は続いています.最近では,単なる経済格差の問題だけでなく,「希望格差」や「インセンティブ・デヴァイド」という側面にも注目が集まっているのは読者の皆様もご承知のとおりでしょう.さらには,そうした側面が「ニート」の問題にもつながっていたりして,書店で関連する多様な書籍の多くをみるまでもなく,現在の日本社会が抱えている問題の根深さが感じられます.

そうした個々の書物で展開される議論に一応納得はしつつページをめくりながらも,なんとなくすっきりしない感じもします.扱われている対象は非常にデリケートなもので,そうしたものに単純明快な解答を求めるのはそもそも間違っていますが,その一方であまりにもヴァラエティに富んだ「格差」「不平等」が語られてしまうと,ちょっと短絡的すぎるのではないかとの印象も持ってしまいます.落ち着いてひとつひとつの議論に対処することが大切なのでしょう. (続きを読む…)

| より以前の記事 »

月別記事リンク

 ●最近の読みもの(新着20本)