ワイルドライフマネジメント
持続可能な自然を未来に残すために――シカ、クマ、イノシシなどの野生動物と人間との関係が保護から管理へと変化してきた歴史をたどりながら、科学と政策の視点から、これからの野生動物管理システム、野生動物管理教育、野生動物管理の日本モデルについて提言する。
【本書「はじめに」より】
野生動物管理は、英語ではワイルドライフマネジメントと訳される。ワイルドライフマネジメントは、狩猟文化がさかんな欧米で、もともとはゲームマネジメントと称されていたように、狩猟獣を持続的に収穫するための理論と技術として発達してきた応用科学である。野生動物は、欧米では土地に根ざした自然資源として認識され、狩猟は文化的、社会経済的な価値を持つ公共サービスとしても位置づけられている。
日本では、ニホンジカやイノシシなどの野生動物は縄文時代から資源として利用されてきた。しかし、弥生時代になって稲作を中心とする農耕中心の社会を迎えると、野生動物は資源に加えて害獣としても認識されるようになった。そのため、日本では、野生動物を自然資源として管理するという発想は欠如し、狩猟は、農林水産業の健全な発展のために害獣を駆除するためのツールとされてきた。また、戦後の近代的な農林業は野生動物が不在の時代に発達したので、農林業の生産活動のなかに野生動物管理を位置づけることはなかった。いまだに、持続的な野生動物管理の制度、それを支える大学教育による専門家の育成と配置が実現しないのは、このような歴史的な背景が影響しているからだと思う。…
…この長い道のりでは、数々の難題に直面したが、その都度、調査手法の開発、共同研究、異なる研究分野からの方法論の転用、国内外の研究者を含むさまざまな人々とのワークショップの開催などによって、切り抜けてきた。そのため、本書は私の個人的な体験を通じた日本の野生動物管理の歴史の理解とともに、課題解決型研究のための方法論としても役立つことを願っている。
第1章 有蹄類の爆発的増加――個体群動態をめぐる議論
第2章 個体群動態――洞爺湖中島のシカ
第3章 シカ管理――知床・イエローストーン・ノルウェー
第4章 定点観測と長期モニタリング――個体群変動のプロセスとメカニズム
第5章 フィードバック管理――順応的管理へ向けて
第6章 世界の野生動物管理の歴史――自然を管理するということ
第7章 日本の野生動物管理の歴史――保護から管理へ
第8章 個体群管理から生態系管理研究へ――ランドスケープの視点
第9章 野生動物管理システム研究――研究経営論
第10章 人口縮小時代の野生動物管理――持続可能な地域のために
第11章 野生動物はだれのものか――野生動物管理とステークホルダー
第12章 大学の野生動物管理専門教育――実現に向けた取り組み
第13章 野生動物管理の日本モデル
おわりに
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