シリーズの特色
■ダイナミックに動いている中国社会の核心的な特徴を描き出す。
■台頭する中国が日本や世界に及ぼしてきた影響を明らかにする。
■第一線の中国研究者による書き下ろし。
中国はどのようにして東西の文明を理解し、また自らの歴史を総括して政権の正統性を確保しながら、世界との関係を切り結んできたのか。経済成長に自信を深め攻勢を強める中国の現在地とゆくえを文明観と歴史認識から読み解く。
経済力や軍事力の飛躍的増大を背景に、大国として世界に積極的に打って出ていこうとする中国。中華人民共和国の建国以来、いかなる外交戦略が展開されてきたのか。中国は国際社会をどのようにイメージし、いかにして国際秩序を構想しているのか。
経済が失速してもなお、中国共産党の支配は持続可能なのか。少子高齢化、都市化、情報化、権利意識の高まりといった新たな状況に対し、習近平政権の改革は功を奏するのか。ガバナンスをキーワードに、アクターと制度・政策の連関のなかで中国政治を読み解く。
世界第二位の経済規模を誇り、経済超大国に向かって急速に台頭する中国。経済成長は持続するのか。国内にどのような軋みを抱え、海外にいかなるインパクトを及ぼしているのか。不確実性とダイナミズムに満ちた中国経済の実像に迫り、そのゆくえを展望する。
急速な経済成長の陰でさまざまな矛盾を抱え、引き裂かれる中国社会。社会の断裂はどのように乗り越えられるのか。格差の構造や揺れ動く言論空間、そのなかで苦闘する人々の姿に迫ることを通じて、社会変革を阻む要因を抉り出し、中国社会のゆくえを考える。
21世紀の世界を考える時、中国をどのように分析し、理解するかは従来の歴史発展論、経済社会発展論、あるいは体制変容論、国際秩序論などの文脈から見て、最も重要な意義のある課題であろう。「台頭する中国」自体は、もはや論争すべき重要なトピックではない。「台頭している中国」が国内的に、また国際社会においてどのような道を歩むのか、そしてそれらが国内外にどのような影響を及ぼすのか、こういった問題こそ今日の中国研究者たちが正面から問うべき課題であろう。
まず国内的に見るならば、市場化、国際化を牽引力にして社会主義経済は大きく変わった。では政治、社会の領域で経済に続く変化はどのように考えればいいのだろうか。依然として共産党一党体制を堅持している中国が、例えば経済発展、中間層・市民層の台頭から民主化へといったような従来の移行論では十分に説明できない政治移行の段階にあるように思える。あるいは沿海と内陸、都市と農村、階層間などで深刻な格差、不平等、腐敗を生みだした中国が、今後どのような経済調整を図るのか。成長の鈍化が不可避になっている今日、本当に「和諧社会」は実現できるのかといった問いが生まれてくる。
さらに国際社会との関係では、中国の経済発展が疑いなく国際経済構造の転換を促している。中国は「世界の工場」として台頭したが、同時にいまや「世界の市場」として米国に代わるアブソーバーになりつつある。ディファクトとして進む「人民元圏」の形成、幾つかの開発・投資を目的とした国際銀行の設立などと合わせ、今後の中国経済が世界の経済をどのように変えていくのかが問われる。そのような中国は将来、世界の国際秩序そのものも変えていくのか。確かに指導者たちは「中国は現在の国際秩序の挑戦者ではなく、いかに現存の秩序に調和していくかだ」と語る。しかし、国際社会において従来には見られなかった「自己主張」を始めていることも確かである。鄧小平が指示した「韜光養晦」(力を見せず静かに力を蓄えよ)の外交戦略は「積極的な突破」へと変わった。軍事力の増強は世界のパワーバランスを変えつつある。そして、それらの延長線上に習近平の主張する「中国の夢」が構想されているように見える。そこでわれわれの関心はさらに、そうした中国の底流に流れる歴史観とそれらによって築かれてきた中華文明に向かう。それは過去を見る視座ではなく、未来の中国を見るもっとも核心をなす視座だからである。
本シリーズは5巻で構成される。従来の政治、経済、社会、歴史といったスタティックな設定をとることはしない。今日ダイナミックに動いている中国そのものの核心的な特徴を描き出すには、新たな視点と幾つかの斬新な切り口からアプローチすることが不可欠である。本シリーズは中国をめぐる核心的な課題を基軸として各巻を構成することとした。基本的にはオーソドックスな分類をベースにしながら、それぞれの巻の問題意識とアプローチがタイトルから読み取れることを心がけた。これによって、従来にはない新鮮さと未来の中国を考える上での貴重な視座を提供できる斬新な「現代中国像」を描き出すことができるだろう。
序 章 中国の文明観と歴史認識
第一章 変転する文明観
はじめに
第一節 中華文明と西洋文明の接触
第二節 伝統中華と近代西洋の攻防
第三節 中国型近代化と西洋型近代化の選択
第四節 伝統中華文化の近代西洋文明への適合性
第五節 社会主義文明観の変遷
第二章 近代メディアと文明観・歴史認識
はじめに
第一節 近代中国のメディアと文明
第二節 民国期のメディア界と文明論
第三節 人民共和国のメディア界と文明論
第四節 メディア界の公共空間と文明論を支える歴史認識
第三章 国家の歴史認識を形作る革命史観
はじめに
第一節 近代化史観と革命史観の競合
第二節 革命史観に抗った近代アカデミズム
第三節 革命史観の確立
第四章 近代化史観の復権
はじめに
第一節 近代化路線がもたらす歴史観の転換
第二節 近代化史観とナショナリズムの衝突
第三節 日中歴史認識問題への挑戦
終 章 文明観・歴史認識と中国のゆくえ
序 章 中国外交へのアプローチ
第一章 中国外交戦略の系譜
第一節 冷戦構造形成下の毛沢東の外交戦略
第二節 「中間地帯論」からの毛沢東の外交戦略――「三つの世界論」
第三節 独立自主外交の展開――毛沢東から鄧小平へ
第四節 脱鄧小平と大国外交への回帰
第二章 グローバル大国に向けての対外戦略
第一節 冷戦終結後の国際構造と中国の対外戦略
第二節 グローバル大国に向かう中国の関与政策
第三節 グローバル大国か?
第三章 グローバル大国としての外交理念の模索
第一節 中国のソフトパワー戦略
第二節 多元的な社会、多様な「中国の道」
第三節 揺れ動く外交理念
第四章 中国の外交行動原理と国際秩序観
第一節 中国の外交行動の原理――「型」と「利」の関係
第二節 中国が目指す21世紀の国際秩序
終 章 中国と国際社会
序 章 高度成長の「向こう側」
第一節 高度成長の光と影
第二節 体制変動いまだならず?
第三節 歴史の転換点
第四節 「中国の夢」
第五節 本書の特徴と構成
第一章 中国政治社会の《新常態》
はじめに
第一節 〈新中国人〉の登場
第二節 新中華思想――〈新中国人〉の社会意識
第三節 新たな表出ツール
第二章 《新常態》下の中国政治のアクター群
はじめに
第一節 中国政治のアクター
第二節 交差するアクター群
第三節 党・国家アクターの統一性の揺らぎ
第三章 政治認識の根本としての「中国の夢」
はじめに
第一節 「中華民族の偉大な復興」と「中国の夢」
第二節 改革の論理と「中華」へのこだわり
第三節 腐敗取締りへの熱意とその狙い
第四章 民主化なきガバナンス改善
はじめに
第一節 一八期三中全会と四中全会
第二節 改革の政治経済学
第三節 「中国的民主主義」と「中国的法治」の内実
第五章 ガバナンス改革と統治システムの再編
はじめに
第一節 政治・行政のガバナンス改善と「均質な国民国家空間」の創出
第二節 財政ガバナンス――地方財政の財源と権限の調整・適正化
第三節 社会管理の総合ガバナンス――特定行政分野における集中管理と統一的法執行
第四節 公正と福祉のガバナンス――都市化政策を通じた「国民待遇」の平等化
第五節 司法ガバナンス――国の司法部門と当の規律検査委員会による垂直指導の強化
第六節 環境ガバナンス――環境規制と国土資源管理の強化
第七節 ガバナンス改革における鄧小平路線の継承と発展
第六章 ガバナンス改革をめぐる習近平のリーダーシップ
はじめに
第一節 「上から」のシステム的な改革・制度観
第二節 危機と非常時のリーダー
第三節 政策的バランス志向
第四節 第一期習近平政権の中間評価と残された課題
終 章 漂流する中国?――航法なき航海
第一節 中国政治におけるガバナンスをどう理解すべきか
第二節 中国共産党のガバナンス能力をどう理解すべきか
第三節 習近平その人をどのように理解すべきか
序 章 経済超大国への道
第一節 そもそも中国は超大国になるのだろうか
第二節 「中国経済崩壊論」に根拠はあるのか
第三節 成長速度はどの程度鈍化するのか
第四節 生産年齢人口の増減よりも重要な労働移動
第五節 これからの経済成長率を予測する
第六節 本書の構成
第一章 投資過剰経済の不確実性とダイナミズム
はじめに
第一節 「過剰資本蓄積」の下での高成長
第二節 脆弱な財政・金融システムと「自生的秩序」――「影の銀行」と「融資プラットフォーム」
第三節 グローバル不均衡の拡大と人民元問題
おわりに
第二章 貿易・投資大国化のインパクト
はじめに
第一節 アジアの巨鳥から世界の巨鳥へ
第二節 中国と競争しているのはどこか
第三節 中国がもたらす発展途上国のモノカルチャー化
第四節 日本に対するインパクト
第五節 投資大国の実像
おわりに
第三章 技術大国化のインパクト
はじめに
第一節 科学技術政策と技術開発の進展
第二節 独自技術の罠
第三節 キャッチダウン型技術発展の意義
第四節 テクノナショナリズムの衝突
おわりに
第四章 土地制度改革と都市化政策の展開
はじめに
第一節 市場経済化の中の土地制度改革
第二節 農地の市場流動化と農村余剰労働力
第三節 農村における都市化の進展と土地制度改革
おわりに
終 章 経済の曲がり角とその先
第一節 中国経済の曲がり角
第二節 成長率の低下
第三節 不動産バブルの崩壊と都市化
第四節 金融改革の新たな展開
第五節 新たな国際金融秩序への模索
序 章 豊かさへの渇望と閉塞する社会空間
第一節 市場経済と教育にかける国家の夢
第二節 受験戦争の激化と固定化する格差
第三節 社会の断裂と進まない民主化
第四節 本書の構成
第一章 英語教育と地域間・民族間の教育格差
第一節 中国における小学校英語必修化への動き
第二節 中国における英語教科書
第三節 都市部における英語教育
第四節 少数民族地域における三言語教育の現状
第五節 少数民族地域における三言語育の問題
第二章 少数民族大学生と就職
第一節 大学生の就労の実態
第二節 少数民族大学生の就職状況
第三節 上級学校進学に対するアスピレーションの低下
第三章 移動の中の少数民族家族と文化伝承
第一節 移動する中国少数民族
第二節 留守児童
第三節 学校の統廃合をめぐって
第四節 寄宿制の問題点
第四章 格差社会の構造
第一節 「社会主義市場経済」の土地制度
第二節 格差拡大を助長する戸籍・社会保障制度
第五章 揺れ動く言論空間
第一節 インターネット時代の言論空間
第二節 習近平政権下の言論統制と世論工作
第三節 進まない民主化
第六章 国境を越えた公共圏の構築に向けて
第一節 「公民運動」のポテンシャル
第二節 公共圏の構築に向けて
終 章 勃興する「民」と社会の再生への道
第一節 自由と民主をめぐる葛藤の中で
第二節 言論の自由と国家の発展