ユーラシア世界【全5巻】

著者
塩川伸明 編集委員
小松久男 編集委員
沼野 充義 編集委員
シリーズ
ユーラシア世界
内容紹介
著者紹介

歴史と現在、地域と世界との対話へ
●ソ連解体後20年を経た旧ソ連15カ国を抱える地域の歴史と現在を探る。
●錯綜する境界意識に着目し、「地域とは何か」という問いへの不断の再考を迫る。
●政治・経済から歴史、文学、思想にわたる様々な学問分野の視点が有機的につながりあう。


第1巻 〈東〉と〈西〉  塩川伸明・小松久男・沼野充義・宇山智彦 編

 「ユーラシア」という呼称は「ヨーロッパ」と「アジア」を複合した語である。この地域の人々は、自己が〈西〉に属するのか〈東〉に属するのか、また、東西の隣人たちとどのような関係を取り結ぶのかを絶えず問い続けてきた。〈東〉〈西〉という思考枠組みは、その論争性を含めて、人々の意識をかたちづくる。揺れ動く〈東〉〈西〉の境界が無数に存在するユーラシア世界に即したこの問題の再考は、より広い視座で同種の問題に取り組む上で、重要な知見を提供する。

第2巻 ディアスポラ論  塩川伸明・小松久男・沼野充義 編

 ユーラシア世界は陸続きの広大な空間であるために、古くから様々なディアスポラが見られた。また、ロシア革命後の亡命、スターリン時代の強制追放、そしてソ連解体後の地政学的変動などでもディアスポラが大量に発生している。人々と地域の重なり合い・ズレが、社会や歴史、文学、民族意識などにいかに関わっていき、何を生みだすのか。国民国家の枠を超えた社会認識の素材、新たな文化を生み出す力として注目を集めるディアスポラを総合的に照射する。

第3巻 記憶とユートピア  塩川伸明・小松久男・沼野充義 編

 悠久で動態に満ちた歴史の中でユーラシア世界には様々な記憶が刻まれ、集団のアイデンティティや心性に大きな影響を与えると同時に、その時々に想起・創造された記憶は政治社会運動の導因や象徴ともなった。一方、この地域はロシア革命をはじめ、多様なユートピアを構想して挑戦する場でもあった。記憶=過去、ユートピア=未来という枠組みを超え、「記憶と化したユートピア」「過去の理想化」という形で連関・交錯する両者から、この地域の特性を探る。

第4巻 公共圏と親密圏  塩川伸明・小松久男・沼野充義・松井康浩 編

 ユーラシア世界は古くから文化的多様性を誇るとともに、ロシア革命に端を発する社会主義体制の経験を共有するという特徴をもつ。ヨーロッパ近代を念頭において構築された「公共圏」および「親密圏」の概念が、正教、イスラームなど各々の文明圏でどのような意味をもつのか。また、社会主義の経験が両概念のあり方にいかに影響したのか。日常や家族、ジェンダーなど、生活世界に焦点を合わせてこの特異な地域を探る。

第5巻 国家と国際関係  塩川伸明・小松久男・沼野充義 編

 国家と国際関係を軸に、ユーラシア世界を考察する。この地域は、ビザンツ帝国、モンゴル帝国、オスマン帝国、ロシア帝国など、近代西欧の国民国家とは異なる編成原理をもつ国をかつて包摂し、近代になると欧米主導の国際秩序の挑戦者たろうとしたソ連圏を抱え、そしてその解体後、さらなる再編成をこうむろうとしている。空間軸と時間軸双方に関わるこのようなユーラシア固有の特徴から問いを立て、国家の越境と変容という普遍的な問題に迫る。



 

刊行の言葉

 ユーラシア大陸の西端にはヨーロッパ世界があり、東端には東アジア世界が、また南方には中東イスラーム世界や南アジア世界が広がっている。そして、これらすべてと隣接し、あるいは部分的に重なり合っているのが、この大陸の中北部に位置する「ユーラシア世界」(かつてはロシア帝国領であり、その後、ソ連邦に引き継がれ、今では15の独立諸国家をなしている空間)である。この地域は、隣接諸地域と陸続きでつながっていて、自然の障壁も少ないため、「内/外」の線引きが不明確であり、地域の枠の流動性・可変性・多重性が特に顕著である。関連して、その広大な空間の中では、多様な文明が複雑な接触と変容を重ねてきた歴史がある。このようなユニークな「世界」を研究するに当たっては、「そもそも地域とは何か」という問いの不断の再考が迫られる。その研究は、通常の「地域研究」の枠にとどまることはできず、「新しいタイプの地域研究」ないしは「地域の枠を超える地域研究」を目指さないわけにはいかない。
 「ユーラシア世界」が隣接諸地域と密接な相互浸透・交流・摩擦を繰り返し、「越境」と「変容」を長期にわたって経験してきたという事実を踏まえるとき、この地域の研究に当たっては、ヨーロッパ研究、中東イスラーム世界研究、南アジア研究、東アジア地域研究などとの対話に開かれた態度が必須となる。そのような研究はまた、視座や方法においても既存のディシプリンの「境」を越えたものとならざるをえない。ここではトランスディシプリナリーなアプローチが不可欠であり、それは、やがては人文社会系諸学――歴史・文学・思想・文化・政治・経済・法律・国際関係等々――の総合までをも展望することになる。知の諸分野の「越境」と「変容」をも視野に入れた野心的な試みとして、本シリーズは読者諸賢に呈示される。


編集委員        

 

 

 

各巻詳細

第1巻 〈東〉と〈西〉

総論 〈東〉と〈西〉/宇山智彦
 I 「ユーラシア」という発想
1 ロシア文学における東と西/安岡治子(東京大学)
2 思想としての戦間期ユーラシア主義/浜由樹子(津田塾大学)
3 現代ロシアのユーラシア主義の検証/中村裕(秋田大学)
 II 〈周縁〉から見た〈東〉と〈西〉
4 チェコ人のロシア表象と自己表象/石川達夫(専修大学)
5 ツァーリとシャーに仕えたアルメニア人/前田弘毅(首都大学東京)
6 カザフ知識人にとっての〈東〉と〈西〉/宇山智彦(北海道大学)
 III 東西接触による文化・社会変容
7 複合する視線/後藤正憲(北海道大学)
8 セルビア語の言語構造に見る〈東〉と〈西〉/野町素己(北海道大学)

 

第2巻 ディアスポラ論

総論 ディアスポラ論/沼野充義
 I 離散のロシア人
1 境界を越えていくロシア・東欧作家たち/沼野充義(東京大学)
2 ベルジャーエフの思想と亡命/大須賀史和(横浜国立大学)
3 ハルビンの在外ロシア教育機関とロシア人社会/中嶋毅(首都大学東京)
 II ロシア・ソ連・東欧のユダヤ人
4 ロシア帝国とユダヤ人/高尾千津子(立教大学)
5 スターリン時代のユダヤ人問題/長尾広視(在トルクメニスタン日本大使館専門調査員)
6 両大戦間期ガリツィアの文芸界とユダヤ人/加藤有子(東京大学)
 III 旧ソ連・東欧・アジアのディアスポラ
7 ロシアのドイツ人/半谷史郎(愛知県立大学)
8 私は夢も日本語で見ていた/メルトハン・デュンダル (アンカラ大学)
9 記憶の変奏/奥彩子(共立女子大学)

 

第3巻 記憶とユートピア

総論 記憶とユートピア/小松久男
 I ユートピアの思想と運動
1 汎イスラーム主義再考/小松久男(東京外国語大学)
2 革命と哲学/佐藤正則(九州大学)
3 ポストモダニズムとユートピア/アンチユートピア/貝澤哉(早稲田大学)
 II 記憶と政治
4 記憶の中のロシア革命/池田嘉郎(東京理科大学)
5 歴史と記憶の政治/橋本伸也(関西学院大学)
 III 記憶の深層
6 英雄叙事詩の伝える記憶/坂井弘紀(和光大学)
7 ポーランド=リトアニア・タタール人のイスラームの記憶/濱本真実(ジョージ・ワシントン大学)
8 歴史と記憶との狭間を生きることについて/渡邊日日(東京大学)

 

第4巻 公共圏と親密圏

総論 公共圏と親密圏/松井康浩
 I 日常生活と社会
1 スターリン体制下の日常生活/松井康浩(九州大学)
2 顔と所有/平松潤奈(金沢大学)
3 総力戦の中のムスリム社会と公共圏/長縄宣博(北海道大学)
 II ジェンダー論
4 三人の結婚/草野慶子(早稲田大学)
5 旧ソ連諸国のジェンダー状況/五十嵐徳子(天理大学)
 III 歴史のなかの家族
6 婚姻の風景/高橋一彦(神戸市外国語大学)
7 家族と法/河本和子(早稲田大学)
8 現代中央アジア農村の商売と親族/吉田世津子(四国学院大学)

 

第5巻 国家と国際関係

総論 国家と国際関係/塩川伸明
 I 冷戦後の世界
1 ソ連邦の解体過程とその後/塩川伸明(東京大学)
2 グローバル・ユーラシア/岩下明裕(北海道大学)
3 ユーラシアの中のロシア・EU経済関係/上垣彰(西南学院大学)
 II 変容する〈地域〉
4 国と国際が溶解する空間としてのバルト地域/小森宏美(早稲田大学)
5 中央アジアにおける国際関係の誕生 1989-93年/湯浅剛(防衛研究所)
6 構成共和国間分業から国際分業へ/野部公一(専修大学)
7 環黒海地域における跨境政治/松里公孝(北海道大学)
 III 歴史の視座から
8 20世紀初頭の極東国際関係/橘 誠(早稲田大学)
9 誰が冷戦の勝者なのか/デイヴィッド・ウルフ(北海道大学)
10 中央ヨーロッパを思い出す/篠原琢(東京外国語大学)

ユーラシア世界【全5巻】
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