死生学【全5巻】

著者
島薗 進 編集代表
竹内整一 編集代表
小佐野重利 編集代表
シリーズ
死生学
内容紹介
著者紹介

刊行にあたって

 ――死生学を構想する
 死生学は新しい学問である。それはまず医療と人文・社会系学問の接点で求められている。現代の病院は死にゆく人びとのケアに多くの力を傾注せねばならないが、自然科学的アプローチによる近代医学の枠内では、その方法が十分には見いだせない。そのため欧米ではホスピス運動が急速に広がり、死に直面した患者や家族のニーズに応えるための死生学の教育・研究が進められるようになっている。生命倫理に関わる問題も噴出してきた。臓器移植や体外受精や遺伝子診断が可能になり、これまではとても不可能であった人びとの欲求を充たすことができるようになってきた。しかしいっぽう、どこで医療の介入に限界線を引くのかという難しい問題に直面しており、医療臨床と医学研究の現場では、死生観を踏まえた倫理的判断が日常的に問われている。
 死生学が求められているのは、医療関係の現場だけではない。教育現場でも死生観教育(デス・エデュケーション)への要望があり、子どもたちに「いのちの尊厳」について教えることを求める声がある。現代人は死に向き合うすべを見失って、途方に暮れているようにみえる。葬送儀礼や墓制が急速に変化し、慰霊や追悼のあり方についても論争が生じている。死者と生者のかかわりのありかたは文化によって多様である。アジア、とりわけ東アジアの伝統では、死と生は表裏一体の関係にあるととらえられてきた。死だけを切り離して考察するのではなく、生殖や誕生、病や老いといった人生の危機にどう向き合うか。これらも死生学の課題である。
 死生学を基礎づけるためには、そもそも生命とは何かという問題、また、人間の生と死をどのように意味づけ理解するかという根本的な人間理解の問題を避けて通ることはできない。現代の実践的な諸問題と関連づけながら、古今東西の哲学や宗教思想を検討し、新たな思考法を探究していかなくてはならない。生命観や進化に関する新たな科学的知見の哲学的、思想的な意味を問い直すことも重要である。環境倫理をめぐる問題、人間の生命と動物や植物の生命の関係をめぐる問題、戦争や刑罰をめぐる実践哲学的問題なども守備範囲である。
 こうしたなか、東京大学の大学院人文社会系研究科(文学部)では、2002年より医学部・教育学部などの他学部とも協力しながら、21世紀COE「死生学の構築」プロジェクトを行なった。続けて2007年からはグローバルCOE「死生学の展開と組織化」を進め、新たな学問領域の確立を目指して、さらに強力な教育・研究体制の構築を目指している。
 シリーズ『死生学』は、この2つのプロジェクトの取り組みから生み出される。この新しい学問分野の豊かな未来を展望する内容を読者が本シリーズに見出していただけることを切に願うとともに、さらにどのような教育・研究の方向性が今後求められているのか、読者とともに考察・討議の輪を広げてゆきたい。

     編集代表 島薗 進・竹内整一・小佐野重利


推薦者のことば

人はやがて死ぬ。または、人はかならず死ぬ。
この「やがて」と「かならず」の間に立って、
人は悩み、苦しみ、救いを求める。
本シリーズが扱う世界であるが、この「死生学」こそ、
まさに「こころの環境学」なのだ。
   ――山折哲雄(元国際日本文化研究センター所長)

「死生学」は何のため、誰のためにあるのか。
臨床の知をしっかりと踏まえつつ、哲学、宗教学、医学、文化論などを包括的に視野に入れたこのシリーズは、
人間が生きる意味を対極の死から問う共同思索の報告と言えよう。
   ――柳田邦男(作家)

生についても死についても私たちはよく知らない。
とりわけ死については、考えることを避けてきたのが現代人だ。
それから目をそらさずに精緻な思索をつみかさねてきた人たちの軌跡が、
次につづく者たちの足もとを照らすだろう。
   ――上野千鶴子(東京大学教授)



第1巻 死生学とは何か  島薗 進・竹内整一 編

 死生学とは新しい学問分野である――。今日、人びとは死を前にしてよりどころを喪失し、強い不安のなかにいる。そのような時代に死生学が果たすべき役割は大きく、また切実である。死生学の輪郭を明らかにするとともに、現代の死生観を多彩な執筆陣で探究する。

第2巻 死と他界が照らす生  熊野純彦・下田正弘 編

 死という出来事により、人びとは死者と生者に引き裂かれる。宗教や哲学はこの事態をどのように受けとめ、その断絶を結び合わせようとしてきたのだろうか。「他界」の観念をその豊饒を喪失してしまっている今日、死は人びとにとって何を意味しているのだろうか。

第3巻 ライフサイクルと死  武川正吾・西平 直 編

 死と向き合うとき、死にゆく人びとへのケア、死別の悲しみへのケアがますます重要である。自らの死への怖れや親しい人の死を抱え、人びとは日々生きてゆく。誕生以前や死後までもひろがるその人生のイメージを、生と死が織り成すライフサイクルという視点で考える。

第4巻 死と死後をめぐるイメージと文化  小佐野重利・木下直之 編

 不死への願い、死への恐怖から、人びとは死にまつわる豊かな形象文化を生み出し、死の文化的表現は美術作品にとどまらず祭礼や演劇、建造物などさまざまな領域にひろがっている。いくつもの時代や地域における事例をたどりながら、その意味と魅力をさぐる。

第5巻 医と法をめぐる生死の境界   高橋 都・一ノ瀬正樹 編

医療技術の格段の進歩などにより、医療の現場や法制度にかかわる領域において、生と死の「境界」が深刻な葛藤をもたらすようになっている。意思決定を行なうことに困難を抱えてしまったこれらの問題をとりあげ、望ましい解決の方向をさぐってゆく。



各巻詳細

第1巻 死生学とは何か

I 死生学とは何か
 1章 死生学とは何か――日本での形成過程を顧みて   島薗 進(東京大学)
 2章 死生学と生命倫理――「よい死」をめぐる言説を中心に   安藤泰至(鳥取大学)
 3章 生権力と死をめぐる言説   大谷いづみ(立命館大学)
 4章 アメリカの死生観教育――その歴史と意義   カール・ベッカー(京都大学)
 5章 英国における死生学の展開――回顧と現状   グレニス・ハワース(バース大学)
II 死の臨床をささえるもの
 6章 生と死の時間――〈深層の時間〉への旅   広井良典(千葉大学)
 7章 なぜ人は死に怯えるのだろうか   芹沢俊介(評論家)
 8章 エリザベス・キューブラー・ロス――その生と死が意味すること。   田口ランディ(作家)
 9章 「自分の死」を死ぬとは   大井 玄(東京大学名誉教授)
 10章 死の臨床と死生観   竹内整一(東京大学)


第2巻 死と他界が照らす生

I 他界へのまなざし
 1章 「現前」する他界――なお傍らに在る他の世界をめぐって   熊野純彦(東京大学)
 2章 日本古代の他界観   藤村安芸子(駿河台大学)
 3章 死と他界   古東哲明(広島大学)
 4章 生まれて愛して死んでゆく、なんの不服があろうか――生の意味の根底を求めて   宇都宮輝夫(北海道大学)
 5章 死と死者への感受の道   篠 憲二(東北大学名誉教授)
 6章 時の流れを越えた場に向かって――死に直面する人間の希望   清水哲郎(東京大学)
II 宗教が照らしだす死と生
 7章 〈われわれ〉と〈わたし〉――統合失調症にみる「死者と生者の共同性」   渡辺哲夫(稲城台病院)
 8章 擬生と擬死からの甦り――エヒイェロギア的視点と物語り論的視点   宮本久雄(上智大学)
 9章 クルアーンの他界観――死をはさむ二つの生   塩尻和子(筑波大学)
 10章 死生学から見た中国出土資料――「死者性の転倒」について   池澤 優(東京大学)
 11章 死生の位相転換――鎮魂慰霊を超えて   阿満利麿(明治学院大学名誉教授)
 12章 生と死の反照を超えて――「行為の倫理」への試論   下田正弘(東京大学)


第3巻 ライフサイクルと死

I ケアのいとなみ・死と向き合う社会
 1章 生と死の社会学   武川正吾(東京大学)
 2章 人命の特別を言わず/言う   立岩真也(立命館大学)
 3章 ケアの現場――「相互行為」を見出す社会学   井口高志(信州大学)
 4章 死と親密圏   中筋由紀子(愛知教育大学)
 5章 冥福観と福祉国家――スウェーデンと日本の共同墓   大岡頼光(中京大学)
 6章 共産主義と大量死――ソヴィエト連邦のばあい   副田義也(金城学院大学)
II ライフサイクルの知恵
 7章 ライフサイクルの二重性――逆説・反転・循環   西平 直(京都大学)
 8章 魂のケアと心のケア   横湯園子(中央大学)
 9章 たましいのイメージと循環するいのち   やまだようこ(京都大学)
 10章 死の遺伝子からみた未来   田沼靖一(東京理科大学)
 11章 シュタイナーのライフサイクル論――死後の生活も射程に入れて   今井重孝(青山学院大学)


第4巻 死と死後をめぐるイメージと文化

I 死と死後をめぐるかたちとイメージ
 1章 言葉とイメージ――ダンテの地獄と源信の地獄   小佐野重利(東京大学)
 2章 ローマ帝政期の墓における市民の自己表現   パウル・ツァンカー(ピサ高等師範学校)
 3章 『往生要集』と近世小説――日本における「地獄」イメージの流布   長島弘明(東京大学)
 4章 東アジアにおける死屍・白骨表現――「六道絵」と「●髏幻戯図」   板倉聖哲(東京大学) ※●=骨+古
II 慰霊と追悼の文化と政治
 5章 歌舞伎の慰霊――追善と襲名   古井戸秀夫(東京大学)
 6章 清正公考――死してのち木像と銅像を遺すことについて   木下直之(東京大学)
 7章 長崎平和公園――慰霊と平和祈念のはざまで   末廣眞由美(東京大学)


第5巻 医と法をめぐる生死の境界

I 現代医療・看護の現場
 1章 「がんサバイバーシップ」という言葉が意味するもの   高橋 都(東京大学)
 2章 出生前検査の意思決定   吉野(青木)美紀子(武蔵野大学)
 3章 高齢者と延命治療――「寝たきり老人」と個人の選択をめぐって   会田薫子(東京大学)
 4章 生命維持治療の中止と差し控え――「法」の役割は何か   児玉安司(弁護士)
 5章 認知症高齢者のよりよい治療決定にむけて――体系的評価を通したコミュニケーションの質の把握   宮田裕章(東京大学)
 6章 死を迎える者と遺される者のケア――公衆衛生学からのアプローチ   アラン・ケリヒア(バース大学)
II 生死の境界線
 7章 加害と被害をめぐる生死の境界   一ノ瀬正樹(東京大学)
 8章 医療上の意思決定における主観的確率と客観的確率   ドナルド・ギリス(ロンドン大学)
 9章 患者中心医療における意思決定とその諸問題   鎌江伊三夫(慶應義塾大学)
 10章 精神障害者と殺人の傾向   作田 明(聖学院大学)
 11章 障害は社会のほうにある   八尋光秀(弁護士)
 12章 進化生物学からみた殺人   長谷川眞理子(総合研究大学院大学)

死生学【全5巻】
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