アニマルサイエンス【全5巻】

シリーズ著者
林 良博
佐藤 英明

1 ウマの動物学

主要目次] 第1章 草原のランナー/第2章 いち早く逃げるために/第3章 草原での生活/第4章 いまウマはどこに/第5章 これからのウマ学

2 ウシの動物学

[主要目次] 第1章 究極の反芻獣/第2章 生きるためのかたち/第3章 もう1つの生態系/第4章 家畜としての今昔/第5章 これからのウシ学

3 イヌの動物学

[主要目次] 第1章 野生から人類の友人へ/第2章 狩人としてのイヌ/第3章 群れの生活とイヌの行動/第4章 ヒト社会のなかに生きる動物/第5章 これからのイヌ学

4 ブタの動物学

[主要目次] 第1章 イノシシからブタへ/第2章 雑食・胴長・鼻力/第3章 清潔好きな動物/第4章 早熟・早肥・多産/第5章 これからのブタ学

5 ニワトリの動物学

[主要目次] 第1章 誇り高き小さな勇者/第2章 飛翔のあかしと子孫のための戦略/第3章 時の流れを遡る/第4章 仕組まれたプログラム/第5章 これからのニワトリ学

 

 

刊行にあたって

 

 

 アニマルサイエンスは、広い意味で私たち人類と動物の関係について考える科学である。対象となるのは私たちに身近な動物たちである。かれらは、産業動物あるいは伴侶動物として、人類とともに生きてきた。そして、私たちに「食」を「力」をさらに「愛」を与え続けてくれた。私たちは、おそらくこれからもかれらとともに生きていく。私たちにとってかけがえのない動物たちの科学、それがアニマルサイエンスである。
 しかし、かつてはたしかに私たちの身近にいたかれらは、しだいに遠ざかろうとしている。私たちのまわりには、「製品」としてのかれらはたくさん存在するが、「生きもの」としてのかれらを目にする機会はどんどん減っている。そして、研究・教育・生産の現場からもかれらのすがたは消えつつある。20世紀における生物学の飛躍的な発展は、各分野の先鋭化や細分化をもたらした。その結果、動物の全体像はほとんど理解されないまま、たんなる「材料」としてかれらが扱われるという状況を産み出してしまった。
 アニマルサイエンスの研究・教育の現場では、いくつかの深刻な問題が生じている。研究・教育の対象とするには産業動物は大きすぎて高価であり、飼育にも困難が伴うため、十分な頭数が供給されない。それでも、あえてかれらを対象に研究を進めようとすると、小動物を対象とする場合よりもどうしても論文数が少なくなる。そのため若手研究者が育たず、結果として産業動物の研究者が減少している。また、伴侶動物には動物福祉の観点からの制約がきわめて多いため、代替としてマウスやラットなどの実験動物を使って研究・教育を組み立てざるを得ない状況にある。一方、生産の現場では、生産性の向上、健康の維持管理など、動物の個体そのものにかかわる問題が山積しているにもかかわらず、先鋭化・細分化する研究・教育の現場とうまくリンクすることができない。このような状況のなかで、動物の全体像を理解することの重要性への認識が強まっている。
 本シリーズは、私たちにとって産業動物や伴侶動物とはなにか、そしてかれらと私たちの未来はどうあるべきかについて、ひとつの答を探そうとして企画された。アニマルサイエンスが対象とする動物のなかからウマ、ウシ、イヌ、ブタ、ニワトリの5つを選び出し、ひとつの動物についてひとりの著者がそれぞれの動物の全体像を描き上げた。個性あふれる動物観をもつ各巻の著者は、研究者としての専門分野の視点を生かしながら、対象とする動物の形態、進化、生理、生殖、行動、生態、病理などのさまざまなテーマについて、最新の研究成果をふまえてバランスよく記述するよう努めた。各巻のいたるところで表現される著者の動物観は、私たちと動物の関係を考えるうえで豊富な示唆を与えてくれることだろう。また、全5巻を合わせて読むことにより、それぞれの動物の全体像を比較しながら、より明確に理解することができるだろう。
 各巻の最終章において、アニマルサイエンスが対象とする動物の未来について、さらにかれらと私たちの未来について、編者との熱い議論をふまえて、大胆に著者は語った。アニマルサイエンスにかかわるあらゆる人たちに、そして動物とともにある私たち人類の未来を考えるすべての人たちに、本シリーズが小さな夢を与えてくれたとしたら、それは編者にとってなにものにもかえがたい喜びである。

林 良博・佐藤英明