日英交流史1600-2000【全5巻】
1 政治・外交 I 木畑洋一、イアン・ニッシュ、細谷千博、田中孝彦編
2 政治・外交 II 木畑洋一、イアン・ニッシュ、細谷千博、田中孝彦編
3 軍事 平間洋一、イアン・ガウ、波多野澄雄編
4 経済 杉山伸也、ジャネット・ハンター編
5 社会・文化 都築忠七、ゴードン・ダニエルズ、草光俊雄編
刊行のことば
幕末・維新いらい、日本という国家・社会の形成過程に対して最も重要な影響を及ぼしたのはイギリスである。イギリスとの交流なくして今日の日本はありえなかったし、今日の国際社会もありえなかったといえよう。
この重要な日英交流の軌跡についてはこれまでもさまざまな観点から照射されているが、本シリーズのように、対象とする時期とテーマを総合的に考察しようとしたのもは類例を見ない。また、国際的な共同研究を踏まえて二国間関係の歴史の編纂を試みたものは、1970年代初頭に刊行された細谷千博・斎藤真・今井清一・蝋山道雄編『日米関係史 開戦に至る十年(1931-41年)』(全4巻)を嚆矢とするが、長期的、多角的、包括的に対象を扱ったものは、本シリーズが初めてである。
本シリーズの対象時期としては、開国からアジア・太平洋戦争までの時期に重点が置かれているが、それだけに限定されず、日英間の接触が始まった1600 年から今日まで400年間に及ぶ長い時間の俯瞰を行っている。また問題領域も広くとり、政治・外交、軍事、経済、社会・文化のそれぞれの局面から交流史を扱っている。
本シリーズの特徴はつぎのようにまとめられる。
(1)長期的な視点からアプローチしていること
(2)多角的包括的テーマを対象としていること
(3)新史料を発掘し、新解釈を示していること
(4)日英研究第1線の総力を結集していること
本シリーズの母体となった日英交流史のプロジェクトは、1994年8月の村山首相談話に端を発し、その中で発足が表明された「平和友好交流計画」の一つとして位置づけられている。そして、アジア近隣諸国との過去の歴史を直視する一環として、戦争が「今なお大きな傷痕を残している」地域としてのイギリスと日本との交流史を編纂する事業が4つのテーマで始まった。以後、それぞれの分野での研究は、両国間で緊密な連絡をとりつつ進められ、計5回のワークショップが行われ、活発な意見の交換がなされてきた。
全体として結論づけられるのは、日英両国関係のポジティブな側面が、幾多の蹉跌を克服し、戦争という災厄にも耐えてきたことが示すように、日英関係は極めて強固ということである。1860年代の馬関戦争や鹿児島の英艦砲撃の時代はやがて20年続いた日英同盟の蜜月の時代にとって代わられ、同じようにアジア・太平洋戦争の奈落に墜ちた暗黒の日々は、その後50年をこえる友好な両国関係の発展の時期にとって代わられた。今日、両国の友好関係は相互の共通利益が拡大し、活動のあらゆる分野での交流が活発化することで、一段と深化の過程を辿っているといえよう。
先に述べたように、日英交流史のプロジェクトは、過去の戦争での「大きな傷痕」を残した近隣諸国等との関係の歴史を直視するという趣旨に発したものであるが、このシリーズの刊行が、日本と多様で複雑な関係をもつ他の国々との間で、「共通の歴史認識(コモン・メモリー)」を形成するための、ささやかにして重要な一歩となれば望外の幸せである。
監修者を代表して 細谷千博