中国絵画総合図録 三編【全六巻】

シリーズ著者
小川 裕充
板倉 聖哲
本シリーズの特色
○世界的に高い評価を得たこれまでのシリーズを増補
○ボストン美術館、オーストラリアの美術館など新たな調査成果を収録
○これまでのシリーズとあわせることにより、中国本土と台北故宮博物院を除く全世界の中国絵画コレクションを網羅
○所蔵機関(者)数約90箇所、収載点数約6500点
○図録頁にも作者名・作品名を明記し、カタログとしての機能を充実
○書家・画家にとっても座右の書

刊行にあたって
『中国絵画総合図録』三編が刊行される。この図録は、初編(正編)以来、東京大学東洋文化研究所東アジア美術研究室が調査・収集した画像資料に基づいたもので、現存する中国絵画を概観するために必備の書としての評価を既に確立してきたが、三編はシドニーの公立美術館などオセアニア地域にある作品も含み、より広範な地域のコレクションを包括し て、その営みが現在まで継続的に行われていることを示すものである。
 また、三編には欧米コレクションでも中国絵画研究において最も重要なコレクションの一つであるボストン美術館の作品調査を行い、多くの未紹介作品を含む所蔵作品を収載(第二巻)さらにピーポディ・エセックス博物館など欧米の美術館を中心に収蔵されるトレード・ペインティング、清時代・乾隆年間以後の作品を少なからず含んでいる。その意味で、近年活況を呈する中国絵画市場、それに伴う激しい作品流通の状況を反映しつつ、中国絵画史研究に新たな視点を提示するものと確信している。
 本格的な調査を開始してほぼ六〇年、初編刊行以来三〇年を経ており、特に初編は長い間入手困難であった。この度、三編刊行に合わせて初編・続編を復刊し、現存する中国絵画の全貌を俯瞰できるように意図した。それは、作品の現存状況のみならず、特に近年における世界的な作品移動の状況を窺わせるものとなっている。
 東アジア絵画史研究のさらなる進展を期して。
 
東京大学東洋文化研究所 教授
小川裕充
板倉聖哲

推薦の言葉
画期的な大事業
大原美術館館長
東京大学名誉教授
高階秀爾

 文学の研究においてテキストの存在が欠かせないように、イメージの生成、発展、相互交流、社会的役割等を考察する美術史研究にとって、美術作品そのものが何よりも重要な基礎資料をであることは改めて指摘するまでもない。しかし作品の多くは、長い歴史の波にもまれて、世界の各地に散らばっている。東京大学東洋文化研究所は、戦後間もなくの時期から、半世紀以上にわたって全世界の美術館、公私のコレクションに収蔵される中国絵画の調査、写真撮影を重ね、貴重な資料の収集・公開に努めてきた。その成果は、これまで『中国絵画総合図録』正編(全五巻)、続編(全四巻)として公刊され、学会への大きな寄与として高く評価されている。このたび、さらにそれに続く三編(全六巻)が上梓されるという。以前には未調査であったものを新たに補うとともに、特に収録範囲を近代の中華民国時代にまで拡げたことは画期的であり、興奮を禁じ得ない。この大事業を強く推薦する所以である。

イメージの玉手箱
秋田県立近代美術館館長
東京大学名誉教授
河野元昭

 『中国絵画総合図録』三編がいよいよ出版されることになった。中国絵画を研究するものにとって大きな喜びである。いや、日本絵画を専門とするものにとってもこれ以上うれしいことはない。いや、絵画だけではない。広く東洋美術に関心をもつものにとって、『中国絵画総合図録』は必要不可欠なるイメージの玉手箱なのである。
 これまで出た正編、続編のお世話にならなかった東洋美術研究者は皆無であろう。かく言う私も、もちろん例外ではない。池大雅の指頭画について、与謝蕪村の微光感覚について、あるいは岡田米山人の桃源憧憬について考えようとしたとき、この図録を座右に置いて、彼らの霊感の源泉を探ったものだった。それはきわめて豊かなアイデアを与えてくれた。この図録なくして、拙論を完成させることは不可能であったろう。
 この三編には、実に六五〇〇点もの作品が収められる。しかしそれは、単に数量の増加を意味するものではない。これまで秘されてきたボストン美術館のコレクションがすべて明らかにされる。これが質量ともに傑出したものであることは予想されていたが、重要な貢献を行ったのが岡倉天心であった点にも、強い興味が惹かれるのである。また、これまでの清代から中華民国期まで対象時期を延ばすとともに、いわゆるチャイナ・トレード・ペインティングまで範囲を広げたことも特筆されなければならない。
 恩師鈴木敬先輩と先輩戸田禎佑、同輩小川裕充、後輩板倉聖哲書誌の四代にわたって遂行されてきた大プロジェクトが、一段落を迎えた。心からその労苦をねぎらい、偉業達成を祝いつつ、この『中国絵画総合図録』三編編を広く江湖に推薦する次第である。