大学数学ことはじめ

試し読み

新入生のために

著者
東京大学数学部会
松尾 厚
ジャンル
自然科学  > 数学
発売日
2019/04/15
ISBN
978-4-13-062923-2
判型・ページ数
B5 ・ 288ページ
定価
2,640円(本体2,400円+税)
在庫
在庫僅少
内容紹介
目次
著者紹介
高校までに学んだ数学との違いにとまどいをおぼえる新入生へ――東京大学理系学生の1年次必修科目として開講される「数理科学基礎」の内容に詳細な解答と解説を加えて書籍化。微分積分、線型代数の基礎や、述語論理、集合と写像などもていねいに解説した本書を通じて抽象数学の言葉や公式の意味を理解し、大学数学の学習をはじめよう。大学数学の独習書としても最適。
※試し読み用のPDFをこちらからダウンロードできます。

【はじめに(抜粋)】
はじめに
 大学での数学は高等学校までの数学とは違うとよく言われます。高等学校までは数学が得意だったが、大学に入って急に数学が苦手になったと聞くこともよくあります。学問としての数学そのものに違いがあるわけではありませんので、高等学校までに行われている数学教育と大学で行われている数学教育のあり方の違いによって、あたかも数学に違いがあるかのように感じられるのでしょう。
 高等学校までの数学教育では、学習指導要領のもと、それぞれの学校で適切に指導するための工夫がなされているものと思います。大学での数学教育においても、各大学において学部・学科等に応じた指導上の工夫が行われており、その結果として、大学での数学がそれまで学んできた数学と違うように感じられるのですから、それは決して悪いことではありません。しかし、大学に入学して、その違いに戸惑って悩んでいるうちにも、大学の授業はどんどん進んでいってしまいます。大学で学ぶべきことは多く、学生が戸惑いを解消するのを待つ時間的な余裕は大学にはないのです。
 東京大学では、この問題点に対処することを一つの目的として、新科目「数理科学基礎」を導入しました。数理科学基礎は、理科生向けの数学科目として、入学直後からおよそ二ヶ月間にわたって開講され、一年生の間に学ぶ数学科目の内容のうち、さまざまな理由からはじめに学ぶのが適当だと考えられる題材を扱います。
〔中略〕
 数理科学基礎共通資料には、高等学校までに学んだ内容についても詳しく述べている部分がありますが、それは復習を意図したものではありません。たとえ大学に入ってから学ぶ題材であっても、大学ではじめて学ぶ部分から書き始めたのでは、記述が唐突になり、意味が分からなくなってしまいますので、高等学校までに学ぶ基本的なところから説き起こしています。また、大学では異なる扱い方をするものや、特に注意が必要となる点などについては、必要に応じて説明を加えてありますので、本書を読む際には、すでに学んで良く理解していると感じられる部分についても、細かい部分に気を配り、よく考えながら目を通していただきたいと思います。
 実際に本書に目を通すと、易しく感じられる部分と難しく感じられる部分があり、その中間的な部分があまりないように思われるかもしれません。それは、数学という科目の特徴とも言えることで、はじめて学ぶ内容については難しく感じられる反面、ひとたび理解すると、あるいは理解した気になると、まるで空気のように当たり前に感じられ、その中間的な状態はないことが多いのです。
 しかし、見た目で理解度を判断すると、本当は理解していない部分があるのに、完全に理解した気になって勉強がおろそかになり、それがあとあとで問題を引き起こす可能性があります。
 そこで、各章の章末には、その章で述べた内容について、きちんと理解できているかどうか読者がチェックできるよう、確認と称する問題を挙げてありますので、取り組んでみてください。読者の便宜のため、その解答と解説を第II部に収録しました。
 また、各章の内容の理解をさらに深めつつ、思考力をつけるための練習問題と、さらに進んだ話題に取り組むための研究課題を本書の第III部に収録しましたので、適宜、活用してください。
〔中略〕
 さて、高等学校までに学ぶ数学では、具体的にイメージできるような対象を調べるのに数学を利用することがほとんどでした。しかし、大学で数学を用いる場面では、数学を適用して考察すべき対象そのものが数学的に記述されていることが多く、そのため考察対象に具体的なイメージを持つことが難しくなってきます。そのような状況においては、論理的に正確に数学を運用する技量が非常に重要になってきます。
 また、数学に現れる諸公式のなかには、その両辺が意味を持っていても、何らかの条件の下でしか成り立たないものがあります。さらに、公式そのものは具体的であっても、成立するための条件が抽象的な言葉で述べられることも良くあります。言うまでもありませんが、成立するための条件を満たさないのに公式を用いてしまっては、誤った結論に至る危険があります。

 このように、大学で数学を学ぶ際には、論理的に正確に用語や公式を運用し、抽象的な言葉で述べられた条件を取り扱う必要があります。ただし、大学初年級の数学については、具体的なイメージからの類推によって、抽象的な用語や公式などの意味が把握できることも多いので、具体的なイメージを通じてその意味を理解するよう努め、その上で、それらを論理的に正確に運用できるようにすることが大切です。はじめは抽象的と思われたことがらも、慣れ親しむにつれて実感がわくようになり、次の段階に進んだ際には、それが具体的なイメージとなって、より進んだ内容の理解につながることでしょう。

 数学を学ぶ際には、記号の意味や用語の定義、定理や公式が成立する理由などを確認しながら一歩ずつ丁寧に進めば、その各ステップはおおむね難しくはありませんが、易しいはずのステップが幾つか重なっただけで、途端にまったく理解できなくなることがあります。その一方で、一歩ずつ丁寧に進むのでは、先が見通せないため、むしろ分かった気がしなかったり、前に進もうとする意欲が湧きにくいなどの面もあります。ときには背伸びをして、先の様子を見てみるのも良いでしょう。また、細かいことは気にせずに、大胆に取り組んでみることが功を奏する場面もあるでしょう。しかし、いずれにしても、地道な作業を抜きにして、数学を理解することは困難です。新しい内容に取り組む際には、特に丁寧に学ぶ必要があります。

 数学に限らず、およそ勉学の成否は、教える側の工夫もさることながら、最終的には学ぶ側の皆さんの覚悟にかかっています。心理的にも時間的にも折り合いをつけて、きちんとした理解の上に、しっかりとした知識と技量を身に付け、それぞれの道に数学を生かしてほしいと思います。

 本書がきっかけとなって、これに引き続く学修が順調に進み、ひいては、さらに進んだ数学を学んだ読者が世界で活躍せんことを切に願います。

平成31年3月
著者
はじめに

I 数理科学基礎共通資料

第1章 集合と写像
第2章 述語論理
第3章 関数の極限
第4章 導関数と原始関数
第5章 種々の関数
第6章 微分方程式入門
第7章 複素数と多項式
第8章 平面の一次変換
第9章 座標空間と数ベクトル
第10章 二変数関数のグラフ
第11章 偏微分係数と接平面
第12章 行列とその演算
第13章 線型写像と行列
第14章 行列の基本変形

数学で用いられる種々の記号
数学で用いられる種々の記法

II 確認問題の解答と解説
III 練習問題と研究課題

おわりに
英語索引・日本語索引


First Steps in Mathematics
Department of Mathematics, The University of Tokyo, Editor
Atsushi MATSUO
東京大学数学部会
松尾 厚
東京大学大学院数理科学研究科准教授
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