戦後日本の夜間中学

周縁の義務教育史

著者
江口 怜
ジャンル
人文科学  > 教育
東京大学南原繁記念出版賞受賞
発売日
2022/03/28
ISBN
978-4-13-056235-5
判型・ページ数
A5 ・ 712ページ
定価
13,200円(本体12,000円+税)
在庫
在庫あり
内容紹介
目次
著者紹介
戦後日本の「不思議な学校」夜間中学の全国的な歴史像をとらえながら、地域における実像、教師たちの思想にせまり、生徒の語りに耳を傾け、「生きられた学校」にせまる労作。いま再照明があたる学びの場が経てきた、教育制度との葛藤、周縁化の中での苦闘を描く。【第11回東京大学南原繁記念出版賞受賞作】
序章 夜間中学から戦後義務教育を問いなおす
 第一節 対象と方法
  1 戦後義務教育史の中の夜間中学
  2 不就学・長欠児を対象とする夜間中学の歴史的位置
  3 生きられた夜間中学の歴史をいかに描くか──社会史という方法
 第二節 先行研究および分析視角
  1 夜間中学史研究の動向
  2 不就学・長欠研究の動向
  3 「周縁」研究からの示唆
  4 周縁の義務教育史の視座
 第三節 時期区分および定義・呼称
  1 時期区分
  2 定義
  3 呼称
 第四節 史料
  1 収集した史料の概要
  2 口述史料活用の意義
  3 倫理的配慮
 第五節 本書の構成

第I部 夜間中学の成立・縮小・再編過程とその実態

第1章 戦後の不就学・長期欠席問題と夜間中学の成立過程
 第一節 敗戦後の不就学・長期欠席者および義務教育未修了者の動態
  1 不就学者・長期欠席者数の推移
  2 不就学の定義とその外縁
  3 長期欠席の理由の推移と除籍の問題
  4 義務教育脱落者と未就学者
 第二節 不就学・長欠対策としての夜間中学開設の始まり
  1 大阪市における夜間中学の誕生
  2 神戸市教育委員会の夜間中学開設認可
  3 中央省庁の不就学・長欠対策
  4 青少年問題対策という枠組み
 第三節 夜間中学の広がりと様々な反応
  1 一九五〇年における文部省の夜間中学認識と対応
  2 東京都における夜間中学開設と文部省の妥協
  3 夜間中学増設の背景と教員団体の反応
 第四節 夜間中学の定着と準制度化
  1 文部省の不就学・長欠対策の推進と夜間中学の把握
  2 一九五三年全国夜間中学調査の概要と背景
  3 全国中学校夜間部教育研究協議会の結成とその意義
 小括

第2章 縮小期の夜間中学──全国夜間中学校研究会の展開と模索
 第一節 夜間中学の法制化問題を巡る諸議論
  1 夜間中学法制化の要望と〈国家への接近
  2 法制化を巡る議論と方針変化
  3 政府内の認識の齟齬
  4 夜間中学へのまなざしと評価──日教組と世論・マスメディア
 第二節 周縁社会の変容と夜間中学の岐路
  1 夜間中学の減少と周縁社会の変容
  2 「問題児」の入学を巡る葛藤
  3 全夜中研の名称変更と組織の見直し
 第三節 夜間中学の存在意義の問い直し
  1 全夜中研の黄十字会との接近
  2 日教組への接近と黄十字会との離反
  3 文部省の夜間中学政策の見直し
  4 夜間中学の新たな存在意義の模索
 小括

第3章 夜間中学の再編──その過程と意義
 第一節 行政管理庁勧告のインパクト
  1 文部省と全夜中研および自治体の反応
  2 髙野雅夫の夜間中学廃止反対・増設運動
  3 義務教育未修了者の権利保障を巡る争点
 第二節 運動の隆盛と新たな葛藤
  1 文部省の政策転換と全夜中研の新たな課題
  2 転機としての一九七一年──形式卒業者からの問いかけ
  3 紛糾の評価と遺産
 第三節 新たな夜間中学像の模索
  1 髙野雅夫の模索──永山則夫の「私設」夜間中学
  2 学校教育と社会教育の間──愛知県の「中学夜間学級」
  3 夜間中学の使命の再定義──全夜中研の着地点
 小括

第4章 夜間中学の多様性──周縁社会への対応の諸相
 第一節 夜間中学の開設・閉鎖の推移および類似の長欠対策特別学級等の動向
  1 開設自治体
  2 開設・閉鎖の推移と都道府県別の開設年数
  3 類似する長欠対策特別学級等
 第二節 自治体別の開設・閉鎖・存続の動向と背景
  1 東京都
  2 神奈川県
  3 愛知県
  4 三重県
  5 京都府
  6 奈良県
  7 和歌山県
  8 大阪府
  9 兵庫県
  10 広島県
  11 高知県
  12 福岡県
  13 その他の県における設置および設置計画

 第三節 夜間中学の類型とその特徴
  1 広域型・校区型・地域型の区分
  2 開設主体
  3 地域特性
  4 学校運営
  5 閉鎖の理由
 小括

第II部 生きられた夜間中学の実相

第5章 夜間中学生の生活世界と学校経験の諸相
 第一節 生徒数・生徒層の推移とその特徴
  1 生徒数の推移
  2 欠席と中退──不安定な生活基盤
  3 就職と進学
  4 生徒の中の少数者
 第二節 作文から見る夜間中学生の生活世界の諸相
  1 史料の特徴と分類
  2 京都市の文集
  東京都の文集
 第三節 聞き書きから見る夜間中学生の生活世界の諸相
  1 聞き書きの概要
  2 一九五〇年代半ばまでの入学者の語り
  3 一九五〇年代半ばから六〇年代半ばまでの入学者の語り
 小括

第6章 被差別部落の人間形成と義務教育
 第一節 語りの舞台
  1 神戸市長田区番町地区の概要
  同和地区改善事業の一環としての夜間中学の開設
  3 番町地区の子どもの暮らしと夜間中学の位置
 第二節 西夫妻の語り
  1 聞き取りの経緯と概要
  2 学校からの〈離脱〉と〈接近〉
     ──敗戦から一九五〇年代までの被差別部落の人間形成文化
  3 積み重なる〈負い目〉と夜間中学再入学による自信の回復
 小括

第III部 夜間中学の教育実践──学校文化と生活世界の狭間で

第7章 京都市の教育実践における「福祉」の位置
 第一節 夜間中学からみた京都市の都市空間
  1 夜間中学開設の背景と立地
  2 都市下層に対する教師のまなざし
 第二節 寺本喜一の学校社会事業論
  1 寺本喜一の略歴と夜間中学との接点
  2 学校社会事業としての夜間中学
 第三節 教育実践の中の「福祉」の両義性
  1 生徒の抱える複合的困難と「教育福祉」実践
  2 社会防衛か社会的包摂か──家庭訪問を巡って
  3 福祉論における非行防止への傾斜
  4 生徒にとっての学校とウェルビーイングとしての福祉
 第四節 一九六〇年前後の断層──生徒福祉課設置の周辺
  1 生徒福祉課とカウンセリング・センターの新設
  2 生徒福祉課新設の夜間中学への影響
  3 教育実践および教師の言説の変化
 小括

第8章 都市下層との葛藤と向き合う教育実践──東京都の事例から
 第一節 戦後東京の都市下層における不就学・長欠問題
  1 夜間中学開設の背景と立地
  2 都市下層における不就学・長欠問題
  3 都市下層住民の教育意識と学校観
 第二節 足立区立第四中学校における「バタヤ部落」との葛藤
  1 足立区本木町の「バタヤ部落」形成過程
  2 「バタヤ部落」住民の生活世界と教育意識
  3 足立四中における親・雇用主・生徒との葛藤
 第三節 立川市立第三中学校の教育実践
  1 就学勧誘における葛藤
  2 「教育的関係の成立」に向けた模索
  3 ある女子生徒の事例
 第四節 荒川区立第九中学校の教育実践
  1 荒川区の地域環境と教育実践の特徴
  2 「貧困」の発見──塚原雄太『夜間中学生』(一九五八年)の頃
  3 貧困認識の転換と生存権への着目
 小括

第9章 部落差別の構造を組み換える教育の模索──和歌山県の事例から
 第一節 和歌山県の部落子ども会と夜間学級の概況
  1 責善教育運動の始まり、部落子ども会の広がり
  2 夜間学級に関する調査
  3 夜間学級に対する教師と地域住民の関わり
 第二節 新宮市における夜間学級の成立と展開──城南中学校の事例を中心に
  1 夜間学級開設の背景と運営実態
  2 責善教育としての夜間学級の意義
  3 夜間学級の方向性の模索──全国の夜間中学との関係
 小括

第10章 漁村の暮らしと学校文化の融合──横浜市の事例を中心に
 第一節 漁村の不就学・長欠の実態とその要因
  1 漁村の不就学・長欠の実態
  2 不就学・長欠の要因を巡る争点──教育意識か貧困か
 第二節 漁村の長欠対策としての夜間中学
  1 地域分布と漁業の特性
  2 漁村との摩擦解消に向けた学校の工夫
 第三節 横浜市立浦島丘中学校の事例
  1 夜間学級設立の経緯
  2 漁民の子どもにとっての夜間中学
  3 教育実践上の模索──経験と科学の融合
 小括

終章 夜間中学の歴史が照らすもの
 第一節 六・三制義務教育制度との葛藤
  1 不就学・長欠の把握・問題化・介入を巡る問題
  2 夜間中学の制度的位置づけを巡る問題
  3 夜間中学の性格や質を巡る問題
 第二節 周縁化された人々にとっての学校
  1 不就学・長欠児にとっての学校
  2 夜間中学生の実態と特徴)
  3 夜間中学に通うことの意味
 第三節 教育実践における葛藤
  1 広域型夜間中学における葛藤
  2 地域型夜間中学における葛藤
  3 再編期における新たな教育実践上の課題
 第四節 残された課題

おわりに

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