川出良枝著『平和の追求』が、4/30『読売新聞』で紹介
川出良枝著『平和の追求――18世紀フランスのコスモポリタニズム』が、4/30『読売新聞』読書面で紹介されました。評者は遠藤乾・東京大学大学院法学政治学研究科教授。
「戦争と平和が交互に訪れる18世紀にあって、啓蒙主義者たちはその問題に取り組んだ。その際、国同士を結びつけ、あるいは国を超えていくさまざまな形が俎上にのぼる。本書が目を向けるのは、そのコスモポリタニズムの思想的格闘である。
コスモポリタニズムというと、現実から遊離した能天気なお絵描きと揶揄される。しかし本書は、当時のアイディアの豊かさと政治的文脈を掘り起こすことで、丸ごとそうした見方への反論をなす。
道徳、制度、経済――この三つを軸に世界秩序は構想される。祖国愛と人類愛の調和を説く世界市民の道徳は、戦争のさなかに敵をどう考え扱うかという厳しい試練にさらされた。その知的営為はラムジー、ル・ブラン、そしてフジュレに見出される。
また、戦争と専制を排する永遠平和への制度案は、よく知られているようにサン=ピエール、ルソー、そしてカントへと引き継がれる。本書が時代背景、具体的構想、論拠にまたがってその思想史を精緻に再構成するとき、そのさまは圧巻だ。
最後に、交易の発展に伴い、経済によって穏和化する国際関係も構想される。本書が取りあげるのは、ムロン、モンテスキュー、ミラボー侯爵に連なる系譜である。それは素朴な相互依存の礼賛では済まされない。植民地・奴隷制の扱い、富への競争と隣国への嫉妬、自由貿易と保護・規制をめぐる議論を通じて、コスモポリタニズム思想は豊かに紡がれゆく」