書籍紹介

明治革命・性・文明表紙

明治革命・性・文明

政治思想史の冒険

渡辺 浩[著]

四六判/640頁
定価4,950円(本体4,500円+税)
ISBN978-4-13-030178-7
2021年6月30日刊行

奇跡のように安定していた徳川体制―なぜ僅か4隻の米国船渡来をきっかけに、それが崩壊し、政治・社会・文化の大激動が起こったのか。当時を生きた人々の政治や人生にかかわる考えや思い、さらにジェンダーとセクシュアリティの変動を探る。驚きに満ちた知的冒険の書。

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著者紹介

[著者]

渡辺 浩
(わたなべ ひろし)

東京大学名誉教授、法政大学名誉教授、日本学士院会員。
1946年生まれ。1969年東京大学法学部卒業。同助手、同助教授を経て、1983年から2010年まで同教授。2010年から2017年まで法政大学法学部教授。
江戸から明治の日本における、広い意味での政治にかかわる考え、思い、意識、心情を研究している。さまざまなジャンルの史料を用いて、当時の人々の等身大の姿に迫り、中国・朝鮮やヨーロッパまでを視野に入れて比較し、過去の人々と共に、様々な思想的問題について考えようと試みている。
著書に『近世日本社会と宋学(東京大学出版会、1985年、増補版2010年『東アジアの王権と思想(同、1997年、増補版2016年『日本政治思想史 十七~十九世紀(同、2010年)などがある。

Q&A

『明治革命・性・文明』について、タヌるんが著者の渡辺先生に質問!

タヌるん

タヌるん:これって、どういう本なの?

渡辺先生:私が、この20年ほどの間に発表してきた文章と、書き下ろしの数編を加えたものです。「明治革命」が焦点です。でも、それだけではなく、日本列島に住んでいた男女の、様々な思いや考えの中から、特に興味深い(と思った)主題を選びました。

渡辺先生
タヌるん

タヌるん:明治維新のことを、どうして明治革命と呼ぶの?

渡辺先生:あれほどの大変革が革命でないとしたら、何が「革命」なのでしょう? かつて、「皇国史観」派は、日本に「革命」があったとは認めたくなかった(この語の元来の意味は、「王朝交代」ですから)。マルクス主義者の多くは、真の「ブルジョア革命」ではなかったと考えた。こうして左右の意見が一致して、革命ではなく、単に「維新」だ、ということになり、今に至っているのです。でも、「維新」は単に新しくなることです。そこで、徳川の世には、今いう「寛政の改革」を「寛政維新」とも言います。「ブルジョア革命」であろうとなかろうと、あの不可逆的な大変革を、たかが「維新」などと呼ぶ方がおかしくないでしょうか

渡辺先生
タヌるん

タヌるん:でも、フランス革命やロシア革命、中国革命とは違うのでは?

渡辺先生:違いもあり、共通点もあります。本書の第三章を読んでみてください。

渡辺先生
 
タヌるん

タヌるん:「明治革命」と「性」って、関係があるの?

渡辺先生:大ありです。例えば、徳川の代も、明治の代も、政府のメンバーは男性に限られていましたよね。何故でしょう?「だって、当たり前じゃないですか」と思いますか? 何故、「当たり前」と思うのでしょう? 体制の在り方自体が、「性」と関連しているのですから、その「性」を問わなければ、その体制のことも分からないのではないでしょうか。

渡辺先生
 
タヌるん

タヌるん:「文明」って、何?

渡辺先生:世が正しく栄えていることをいう、儒教の古い言葉です。日本の年号にも使われました(1469-1487)。そして、それが、19世紀の西洋人が偏愛したcivilizationという語の翻訳語にもなりました。両方の意味が重なって、「文明」化することは、誰も否定しにくい、結構なことだということになりました。でも、本当のところ、何が「文明」なのでしょう? このことを巡って、多くの悩みがありました。

渡辺先生
 
タヌるん

タヌるん:この本はカバーも変わっているし、中にも絵や写真が沢山あるようね? 何かわけがあるの?

渡辺先生:言葉だけでは伝えにくいことが沢山あります。謎めいた画像や、ちょっと驚きの画像に接して、何かを感じ、しばし考えていただければありがたいです。

渡辺先生

内容見本

はしがき

 本書は、広い意味での政治に関する、「日本」における思想の歴史を論ずる。時期は、徳川の世から、(従来、多くの人によって「明治維新」と呼ばれてきた)大革命を経て、おおむね「明治」の年号が終わる頃までである。主題は、その間の、特に重要で、しかも現代にも示唆的だ、と筆者の考えたものである。但し、その議論の方法と主題の選定は、(筆者の主観では)往々、かなり冒険的である。
 方法として特に努めたのは、日本を日本だけを見て論じない、ということである。「日本史」を、西洋や東アジアの異なる歴史をたどっている人々の側からも眺め、双方を比較し、双方に対話させようとしたのである。無論、それは、西洋や中国を基準として日本の「特殊性」をあげつらうということではない。それぞれの個性と、それにもかかわらず実在する共通性の両面を見ようというのである。日本史も、東アジア史の中で眺めるべきだとよく言われる。当然である。しかし、常にそこにとどまっている必要はない。日本史も人類史の一部である。

第一章 「明治維新」論と福沢諭吉

第一節 「明治維新」とは?

 十七世紀始め以来、極めて安定して、二世紀半以上続いてきた徳川政治体制が、ペリー長官指揮下の四隻の船の渡来以降、急激に不安定になり、結局、その後僅か一四年余りで崩壊した―これは、今考えても、実に不思議な感じがします。隣の清国や朝鮮国の王朝と比較しても、非常にもろかった。清朝など、アヘン戦争に負け、アロー号戦争(第二次アヘン戦争)に負けて首都を占領され、義和団事変で王朝政府が首都から逃げ出し、しかもまだ一〇年続いた。アヘン戦争から数えて七〇年、もったわけです。それに比べると、徳川氏の政府は、対外戦争を一度もせず、それでいて急坂をくだるようにみるみる弱体化して、あっけなく崩れ去りました。
 しかも、徳川体制崩壊後の変革は徹底的でした。政治・社会・法制・経済・教育・文化・芸術・言語、あらゆる領域で大きな変化が生じました。
 実際、この変革を体験した明治の人々は、徳川体制の終焉をよく「瓦解」と呼んでいます。がらがらと音をたてて、大きな建物が崩れ去ったような印象を受けた。また、「瓦解」以前のことをしばしば「夢のようだ」と言い、夢に喩えています。今が現実だとするなら、昔は夢だとしか思えない。そうとしか思えないほどに、世の中が急激に、大きく様変わりしたということです。

(中略)

 この徳川体制の「瓦解」とその後の諸改革は、全体として大きな革命だったと言ってよいと思います。実際、明治の人も、よく「革命」と呼んでいます。ところが、フランス革命などが頭にあると、何となく革命らしくない。それは、一般の民衆が立ち上がって、大集会を開いたり、示威行進をしたり、あるいは王宮を包囲したり、王宮に乱入したりというような事件が全くないからでしょう。それまでに、経済的な要求をする「国訴」や「百姓一揆」、また村での「世直し」暴動はあっても、政治体制の転換を要求する民衆の大蜂起などというものがない。

目 次

Ⅰ 「明治維新」とはいかなる革命か

第一章 「明治維新」論と福沢諭吉

第一節 「明治維新」とは?
第二節 「尊王攘夷」
第三節 ナショナリズム
第四節 割り込み
第五節 「自由」

第二章 アレクシ・ド・トクヴィルと三つの革命
 ―フランス(一七八九年~・日本(一八六七年~・中国(一九一一年~)

はじめに
第一節 「一人の王に服従するデモクラティックな人民」
 《Un peuple démocratique soumis à un roi》
第二節 中国―デモクラティックな社会
第三節 デモクラティックな社会の特徴
第四節 中国の革命(一九一一年~)
第五節 日本の革命(一八六七年~)
おわりに

Ⅱ 外交と道理

第三章 思想問題としての「開国」
 ―日本の場合

はじめに
第一節 「文明人」の悩み
 (一)様々な正当化 (二)自信と当惑 (三)反省
第二節 「日本人」の悩み
 (一「仁」・「義」・「礼」 (二「道理」の所在 (三「世界一統」

第四章 「華夷」と「武威」
 ―「朝鮮国」と「日本国」の相互認識

はじめに
第一節 通信使の目的と「誠信」
第二節 「蛮夷」と軽蔑―朝鮮側の認識
 (一「礼」と「文」 (二)怨恨と不信
第三節 「慕華」と「属国」―日本側の認識
 (一「礼義」と羞恥 (二「武威」と軽侮
第四節 破綻の要因
 (一)天皇 (二)世襲
おわりに

Ⅲ「性」と権力

第五章 「夫婦有別」と「夫婦相和シ」

第一節 「中能(なかよく)
第二節 「入込(いれこみ・いれごみ・いりこみ・いりごみ)
第三節 「不熟(ふじゅく)
第四節 「相談(さうだん)
第五節 「護国(ごこく)
おわりに

第六章 どんな「男」になるべきか
 ―江戸と明治の「男性」理想像

はじめに
第一節 徳川体制
 (一)男道―政治体制と「性」の秩序 (二)男立と丹次郎―動揺
第二節 維新革命へ
 (一)君子・義士 (二)英雄・豪傑・志士
第三節 明治の社会と国家
 (一)英雄・豪傑・壮士 (二)紳士と軍人 (三)煩悶青年と「人格」

第七章 どんな「女」になれっていうの
 ―江戸と明治の「女性」理想像

はじめに
第一節 徳川体制と「女」
 (一)離縁と経験 (二)御所方 (三「情け」と「愛敬」 (四)芸
第二節 「文明開化」と「女」
 (一「色」の氾濫と封鎖 (二「処女」の悩み (三「女学生」の悩み (四「良妻賢母」と「花柳界」
おわりに

Ⅳ 儒教と「文明」

第八章 「教」と陰謀
 ―「国体」の一起源

第一節 「機軸」
第二節 「道」
第三節 「だましの手」
第四節 「文明」と「仮面」
第五節 「国民道徳」

第九章 競争と「文明」
 ―日本の場合

第一節 「競争原理」
 (一)世紀末以降 (二)十九世紀後半
第二節 徳川の世
 (一)「君子」の当惑 (二「功名」と「家格」 (三)家業と「はり合」
第三節 明治の代
 (一「自業自得」 (二「優勝劣敗」
おわりに

第十章 儒教と福沢諭吉

はじめに
第一節 福沢諭吉の儒教批判
第二節 天性・天理・天道
 (一)独立自尊 (二「議論の本位」

Ⅴ対話の試み

第十一章 「聖人」は幸福か
 ―善と幸福の関係について

第一節 問題設定への疑問
第二節 回答の必要
第三節 応報の類型
第四節 隠遁と方便
第五節 「独立自尊」
おわりに

第十二章 対話 徂徠とルソー

人名索引

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